この照らす日月の下は……

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 いつものようにアスランがキラを迎えにヤマト家の部屋へと向かった。
 しかし、だ。そこでいつもと違う光景を目にする。
「キラ?」
 いつもよりも大きな荷物を持ったキラとカリダが一緒に玄関から出てきたのだ。
「アスラン? 今日、僕、学校お休みするから」
 キラは即座にこう言ってくる。
「ごめんなさいね、アスランくん。しばらく、お引っ越しをすることになったの」
 カリダもそう続けた。
「どうして……」
「リフォームするから。お家にいると、お仕事をする人の邪魔になるでしょう?」
 キラは首をかしげつつそう告げる。
「それに、危なくてお家にいられないし」
 材料や道具を室内に置いてあるのだ。しかも、それらを勝手に移動すれば職人達の迷惑になる。
 それよりは一時的に家賃はかさむが、別の部屋を借りて暮らした方がいいだろう。そう判断したのだとキラは続けた。
「その方が早く終わるってパパが言ってたし」
「……早く終わる……」
 アスランにはこの一言が重要だったようだ。
「……学校は?」
「あさってから行くよ。朝、パパに送ってもらって、帰りはママが迎えに来てくれるの」
「ちょっとわかりづらいところにあるマンションだから」
 キラの言葉の後に続けてカリダがそう言った。
「僕がお邪魔しても?」
「ごめんなさい。レノアの仕事場とはここを挟んで正反対だし、今の部屋より狭いの。だからちょっと無理だわ」
 カリダが苦笑を浮かべながらやんわりと断る。
「荷物も最低限しか運んでいないの。後はここのレンタル倉庫に入れてあるわ」
 おもてなしが出来ない以上、呼べないのだ。言外に彼女はそう続けた。
「そう、ですか」
 アスランは自分が何を言ってもカリダに翻されるだろうと判断したのか。とりあえず引き下がることにしたようだ。
「学校で会えるなら、まぁ、我慢する」
 つまり、学校ではずっとそばにいるという宣言だろう。
 トイレはどうすればいいのか、とキラは一瞬悩む。
 だが、家では好きなことが出来るのだ。そのくらいは我慢するしかない。すぐにそう考え直した。

「母上はキラ達が引っ越すことを知っていたのですか?」
 レノアが帰ってくると同時にアスランはそう問いかける。
「えぇ。だから、当分は研究所に泊まり込むのはなしね」
 それに彼女はこう言い返す。
「何故、教えてくださらなかったのですか?」
 アスランはそんな彼女にこう問いかけた。半分抗議の意味も含めてある。
「どうして? キラちゃんが教えてくれなかったの?」
 それが普通の反応だと言うことは想像がつく。
 しかし、改めてその事実を突きつけられるとショックが大きいなどというものではなかった。どうやら、キラはぎりぎりまで自分に教えないようにしていたらしい。それにご両親も協力していたと言うことだ。
「……アスラン、前に私が言ったことを覚えているかしら?」
 レノアが不意にこう問いかけてきた。
「前に、ですか?」
「えぇ。ちゃんと言ったはずよ。キラちゃんとあなたは考え方が違う。キラちゃんはあなたのものではない、って」
 言われてすぐに思い出す。
「それは今回のことに関係ないと思います」
「少なくとも原因の一つでしょうね」
 レノアは静かな声でそう告げた。
「あなたはキラちゃんを束縛しすぎたの。キラちゃんが疲れて壊れそうになってしまうくらい」
「キラは!」
「キラちゃんはお人形じゃないわ。自分で考えて動くことが出来る一人の人間。それが理解できないうちはあなたとキラちゃんを会わせることは出来ないわね……キラちゃん達が戻ってくる前に、あなたがそれを理解できないようなら母さんと一緒にちょっと月を離れましょうか。一年ぐらい」
 にっこりと微笑みながらレノアはそう宣言する。そして、彼女がその笑みを浮かべているという事は、自分の言葉を翻すつもりはないのだろう。
「……母上……」
 アスランは母の顔を見つめることしか出来なかった。


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最遊釈厄伝