この照らす日月の下は……
18
「僕は、キラと一緒にいろんなことをしたいだけなのに……」
どうしてあいつは邪魔をするのだろうか。アスランはそうつぶやく。
「でも、今回のことはあなたが悪いわ、アスラン」
しかし、レノアは同意をしてくれない。
「母さん!」
「彼女の言うとおり、少し私たちはカリダ達に甘えすぎたようね」
アスランの言葉にレノアは少しだけ顔をしかめる。
「キラちゃんはあなたのおもちゃじゃないのよ?」
そしてこう言ってきた。
「わかってます」
キラは自分と同じ《コーディネイター》だ。それなのに、自分に取り入ろうとはしない。だから少しでも一緒にいたいのに、どうしてわかってくれないのだろう。
「……キラちゃんにはキラちゃんのやりたいことがある、と言うことも?」
本当にわかっている? とレノアはさらに質問を重ねてきた。
「キラのやりたいことは僕と同じでしょう?」
友達なんだから、とアスランは言い返す。その瞬間、レノアは深いため息をついた。
「本当にあなたはあの人の子ね。顔は私に似たのに、一番似てほしくないところが似てしまったわ」
困ったものね、とレノアは言う。
「母上?」
「キラちゃんとあなたは別人よ。考え方も違うわ」
そこは理解できているの? と問いかけられてアスランはすぐに「もちろん」と言葉を返す。
「あなたと違う人を好きになるかもしれないわよ?」
母の言葉はいつでも正しい。アスランはそう認識していた。しかし、この言葉だけは間違っていると思う。
「そんなことはありません」
キラが自分以外の誰かと仲良くなるはずがない。アスランはそう言い切る。
確かにカナードとは親しくしているようだ。だが、それは彼が親戚だからではないか。
「キラの友達は僕だけです」
それで十分ではないか。実際、学校でも文句はないようだし、と口にする。
「キラちゃん本人がそう思っていないのに?」
だがレノアは納得してくれない。
「第一、キラちゃんにはあなたより先にお友達になった子がいるそうよ。滅多に会えないけど、まめにメールはしていると聞いているわ」
「嘘だ!」
「本当の事よ。あなたにだって、本国に帰れば親しくしている人がいるでしょう?」
「あいつらは僕が僕じゃなくてもかまわないんだ。父上と母上の子であれば」
キラとは違う、とアスランは言う。
「本当にそうかしら?」
レノアの言葉にアスランは眉根を寄せる。
「そう言う表情をしないの。ここにしわが寄るわ」
即座に彼女はアスランの眉間をつついた。
「そして、思い込みは改めなさい。ともかく、これからお休みまでは母さんも時間がとれるから、キラちゃんのおうちにお世話になる必要はないわ」
ちゃんと帰ってくるのよ、と言われて、アスランは何故かショックを感じた。
あの生活がずっと続くと思っていた自分がいたことに今更ながら気付いたのだ。そして、それは母が自分との時間がとれるようになれば消えるものだと言うこともである。
「……キラがとられる……」
反射的にそうつぶやく。
「キラちゃんはあなたのものではないわ」
レノアが怒ったようにそう言う。
その声すら、今のアスランの耳には届かなかった。