この照らす日月の下は……
19
キラ達が通っている幼年学校には年に一度の長期休暇と春とクリスマスから新年にかけての二度の一週間ほどの休暇がある。
「……二ヶ月の休暇があるなら、しばらくアマノミハシラにいかないか?」
カナードが不意にこう言ってくる。
「皆喜ぶぞ」
さらに彼はこう続けた。
「それに……今でないとラウにはしばらく会えなくなる」
プラントに行くからな、と言われてキラは首をかしげる。
「僕はいいけど……母さん達がなんて言うかな?」
だめって言わない? と視線だけで問いかけた。
「大丈夫だろう。あっちなら皆いるしな」
お前の面倒を見る存在は十分にいる、とカナードは笑う。
「まぁ、ムウがいれば確実だろうし」
常識という点では、と言われてもキラには意味がわからない。
「ミナ様やギナ様じゃだめなの?」
疑問はすぐに解決しろと言われているとおりこう問いかける。
「あの人達はサハクの次期当主だからな」
周囲に使用人がいるのは当たり前。食事や掃除は彼等がすべて取り仕切ってくれる。二人はただ命じればいいだけなのだ。
しかし、自分たちは違う。カナードはそう続ける。
「家事は全部自分たちでやらなければいけないだろう? ハルマさんだって、時間があればカリダさんを手伝っているし」
確かに、とキラは首を縦に振って見せた。しかも、カリダは実に楽しそうに掃除や洗濯、料理を作っている。その姿を見ているのがキラは好きだ。
てっきりミナ達もそうだと思っていたのにとキラはつぶやく。
「カリダさんが動いている姿を見ているのはあの二人も好きだぞ。ただ、自分たちが手を出せないとも知っているだけだ」
あの二人が手を出したらそれこそカリダの手間が増える、と彼は続けた。
「せいぜい茶を入れるぐらいだな、あの二人が出来ることは。下僕がたくさんいるからかまわないんだろう」
「下僕?」
使用人とは違うのか、とキラはカナードを見上げる。
「召使いだと思えばいい」
まぁ、そのうちわかるだろう。彼はそう続けた。
「と言うことで、カリダさんのところに行くぞ」
そのままカナードが手を差し出してくる。キラは素直にその手を握り返した。
カリダの答えはもちろん『是』だった。
「ただし、ムウくんに迷惑をかけないのよ?」
それに続いて彼女の口から出たのはやはりムウの名前である。
「どうしてムウさん?」
「お兄ちゃんだからよ。ラウ君でもいいけど、忙しいでしょう、今」
だから、とカリダは続けた。
「あまりわがままは言わないのよ?」
「わかってるよ。いつも言ってないもん」
言う前に周りがあれこれしてくれるのがデフォルトだ。もっとも、自分でやるべき事はきちんとやらせてくれるのもだが。
「そうね。そのあたりはムウくんだけではなくミナちゃんもちゃんと考えていてくれるものね」
だから安心はしている、と彼女は微笑む。
「それに、ラウ君に『いってらっしゃい』を言わないといけないものね、キラは」
そういえば、しばらく会えなくなるのだ。ひょっとしてメールもだめなのだろうか、と不安になる。そのあたりは直接聞いてみればいいのかもしれないけど、とすぐに思い直す。
「ちゃんとハルマにも『いいですか』って聞いてみるのよ?」
最終的に決めるのは父だ、と彼女は言外に告げる。
「帰ってきたら聞いてみる」
「大丈夫です。キラが忘れても俺が覚えてますから」
キラの言葉の後にカナードが笑いながらそう言った。
「忘れないもん」
そうつぶやく。そうすれば、二人はそっとキラの頭をなでてくれた。