この照らす日月の下は……

BACK | NEXT | TOP

  12  



 キラがラクスに教わった歌を歌い終わったときだ。不意にインターフォンが鳴り響く。
「ママ、お客さん!」
 そう言いながらキラは選択をしているカリダに声をかける。
「あらあら。どなたかしら」
 手を拭きながら彼女はキッチンから出てきた。
「タオルは預かります」
 ムウがそう言うとカリダの手からタオルを受け取る。
「ありがとう」
 いい子ね、と微笑むと彼女はそのままエントランスへと足を向けた。逆にムウはリビングの奥へと移動していく。
「我らがここにいることは知られぬ方がいいだろうからな」
 不思議に思っていることがわかったのか。ミナがそう教えてくれる。
「サハクに近しい家の存在だと知られると大騒ぎになるからの」
 ギナもこう言ってきた。
「お前達はそのまま普通でいてくれ。こいつらみたいになられたら後が面倒だ」
「ムウ。貴様は何が言いたい?」
「キラには可愛いままでいてほしいだけだが?」
「それには同意をするが、我らを引き合いに出す理由はどこにある?」
「特にギナは可愛くないから」
「ふむ。我が弟ながらそれは否定出来んな」
 頭の上でぽんぽんとかわされるその会話に、キラはついていけない。
「ミナ様は可愛いよりきれいです」
 とりあえずこう言ってみる。そうすれば、何故か三人はいきなり口をつぐんだ。
「……キラ。お前、目が悪かったか?」
 我に返ったらしいムウがこう問いかけてくる。
「何を言っておる。キラは素直でよい子ではないか」
 即座にミナが言い返した。
「お前一人ならな。同じ顔をしているやつがそこにいるだろう?」
 そう言いながらムウがギナを指さす。
「キラのセリフはそいつも当てはまるんだぞ」
 美人と言われて嬉しいのか、とムウは彼に問いかけていた。
 それに『こんな時はなんと言えばいいのだっけ』とキラは考える。
「ギナ様はハンサム?」
 確か、男の人にはこちらの言葉を使うのだっただろうか。そう思いながらキラはギナを見上げる。
「よい子だな、キラは」
 そうすれば、彼は満足そうにうなずいて見せた。
「お前ら……キラに良からぬことを教え込んでいるわけじゃないよな?」
「当然であろう」
 ムウの言葉にギナがそう言い返す。
「キラがそう思ってくれているだけではないか」
 さらにミナもそう続ける。
「……絶対、お前らが何かを吹き込んでいるだろう」
 ムウがそういったときだ。
「キラ!」
 カリダの声がエントランスから響いてくる。
「はぁい」
 それにキラは言葉を返す。
「ちょっといらっしゃい」
「はい、ママ」
 いったい何なのだろうか。そう思いながらキラは歩き出した。


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝