この手につかみたいもの

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  01  



「キラ……キラの望みって何なの?」
 幼年学校の寮。自分たちの部屋の窓からドーム越しに見える星を見上げながらアスランが問いかけてくる。
「僕の?」
 その隣で同じように星を見上げていたキラが、視線をアスランへと移しながら聞き返してきた。透き通るような紫水晶の中に自分の姿が映し出されていることにアスランは満足を覚える。
「そう、キラの」
 その問いかけに、キラはう〜んと考え込んでしまった。だが、すぐに瞳にいたずらっ子めいた光をたたえてアスランに微笑みかけてくる。
「アスランの望みは何なの?」
 そして逆にこう聞き返してきた。
「そうくるか」
 キラの反撃にアスランは苦笑を浮かべる。
「そうだな……とりあえず、キラがそばにいてくれればいいか……だから、そのためにもキラの願いを聞いておこうと思って」
 そうしないと努力のしようもないだろう、とアスランはキラに同意を求めた。
 彼の言葉に、キラはそうなのだろうかというように小首をかしげる。だが、アスランはいつものように自信たっぷりの表情を浮かべていた。
 自分に今ひとつ自信がないキラにとって、アスランはいつも行く手を教えてくれる存在だ。その彼がそう言うのならばそうなのだろうかとも思ってしまう。
 アスランにしてみれば、どうしてここでキラが納得してしまうかわからない。それがキラが自分に自信がないからだというのは知っている。だが、アスランから見ればキラほど才能にあふれた者はいないとすら思えるのだ。
 確かに、自分の方が秀でている面もある。
 しかし、総合的に見ればどうだろう。
 人をその『人』として見ることができるキラは、誰とも公平に付き合うことができる。
 自分を特別視しないキラの存在はアスランの救いとなっていた。
 そのせいで傷つくことも多いキラを守りたい……
 そのための努力ならいくらでも惜しまない……と自分が思っていることに彼は気づいているだろうか。
「んっとね……僕は、あそこに行ってみたい」
 キラは瞳を輝かせると、宇宙を指さす。
「あそこ?」
「うん。まだ誰も行ったことがない星に」
 あそこを自分の目で確かめたいのだ……とキラは微笑みながらアスランへと視線を戻した。
「……それは……ずいぶんとまたすごい望みだね」
 アスランが驚いたような表情を作りながら言葉を口にする。それに、キラは悲しげな表情を作った。馬鹿にされたと感じたのかもしれない、とアスランは慌てて次の言葉を口にする。
「でも、僕も行ってみたいかな、確かに」
 誰も行ったことがない場所なら……とアスランは笑った。そこでなら、自分たちは何にも束縛されずにいられるだろうかと心の中で付け加える。
「ジョージ・グレンのように、自分達で設計した宇宙船で行けたらもっといいよね」
 船体は自分が作るから、システムはキラが作ってね、とアスランが口にしたところで、ようやくキラは表情を変化させた。
「一緒に行ってくれるの?」
 おずおずとした口調でキラはこう問いかけてくる。
「さっき僕が言ったこと、もう忘れたの?」
 アスランは手を伸ばすと、キラの柔らかな頬へそうっと触れた。すぐにキラが頬をすり寄せてくる。その仕草に嬉しそうに目を細めながらアスランはさらに言葉を続けた。
「僕の望みはキラがずっと側にいてくれることなんだよ。だから、キラが行きたいなら、僕も付き合う。第一、心配で一人で何か行かせられないって」
「ひどいな、アスラン。僕ってそんなに信用ないの?」
 確かにアスランから見たら、頼りないかもしれないけど……とキラは頬をふくらませる。
「違うよ。僕が心配なだけ。キラが泣いていないかとか、寂しがっていないかとかね」
 そんなことを考えただけで辛くなる……とアスランは付け加えた。
「キラが大好きだから……キラが一人で悲しい思いをしているなんて耐えられないだけ」
 言葉と共にアスランはキラの体を自分の方へ引き寄せる。それにキラはあらがわない。
「……僕も……アスランが一番好き」
 素直にアスランの胸に抱かれたキラは、頬を染めながらも笑ってこう言った……

 だが、結局自分たちは子供で……
 大人の都合だけで自分たちの願いが簡単に打ち壊されてしまうことに二人が気づいたのはそれからしばらく経ったときのことだった。

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最遊釈厄伝