何故、あいつがキラの側にいるのだろうか。
 新たに送られてきた映像を見て、フラガは顔をしかめる。
 確かに、アスラン・ザラは生き残った。そして、キラに懸想をしていたことも知っている。
 だが、あの男がキラに何をしたか。それを考えれば、目の前の現実を認められるだろうか。
「……キラ……」
 だが、キラは受け入れようとしているらしい。
「あいつが……幼なじみだから、か?」
 そして、キラの記憶の中で彼の存在はかなりな場所をしめていたらしいと聞いている。本当に兄弟のように寄り添っていたのだ、と。
 そう言う土台があるから、彼を受け入れたとしても仕方がない……と考える自分がいると同時に、どうしても許せない……と思う自分がいることまた事実だ。
 あんなにキラを傷つけていたではないか、と。そんなキラを守ってきたのは自分だ。
 だが、今の状況では、自分が彼を傷つけてしまうことになるかもしれない。
「……誰よりも、お前の幸せを祈ってきたのに……」
 それでも、どうせならこの手で引き裂いてしまいたいとも思う。
 この矛盾した状況にいつまで耐えられるだろうか。
「俺は……お前の記憶の一部になるのか?」
 そして、いつかは悲しい思い出としてだけ残るのか……とフラガは呟く。
 自分が死んだ後ならば、それでもかまわない。
 もう、どうしてやることもできないのだから。
 だが、自分は生き残ってしまった。
 キラの側にさえ行ければ、新しい思い出を作ってやることすら可能だろう。
「俺は……」
 どうすればいいのか。
 既に、何度繰り返したのかわからない自分自身への問いかけを、フラガはまた呟く。
 自分の感情を優先させるのであれば、キラをここに連れてきて欲しい……と告げればいいだけのことだ。そうすれば、彼は自分だけのものになる。
 しかし、それではキラの未来はもちろん、その人格まで閉ざしてしまうことにはならないか。
 そう考えてしまうのだ。
 だが……とも思う。
 他の男――特にあのアスラン・ザラにみすみすキラを渡してしまっていいものか、と囁く声もあるのだ。
「……俺は……」
 答えを教えて欲しい……とフラガはただ一つの面影に向かって囁く。だが、その面影は悲しげな笑みを浮かべているだけだった。

「……予想以上にがんばりますね……」
 その様子をモニターで見ていた男が微苦笑を浮かべる。
「さすがはエンデュミオンの鷹……と言うべきでしょうか」
 あの精神力は……と彼は付け加えた。
「よろしいのですか?」
 そんな彼の脇に控えていた男の一人がこう問いかけてくる。
「手ぬるいのではありませんか?」
 別の一人がこう口にした。
「装置の出力をあげれば、お望み通りの結果をすぐにもでご報告できるのですが……」
 この問いかけに、彼は首を横に振る。
「それでは後々、こちらの望む通りの働きを期待できませんからね。それでは計画に支障が出ます」
 それに、と彼は笑みを深める。
「まだまだ時間はありますよ。最も、無制限、と言うわけではありませんが」
 だが、それでもタイムリミットまで末余裕も必要ではないか。そう付け加えた。
「第一、それらもまだ、使い物にならないのではありませんか?」
 言葉とともに、男は彼らの後ろへと視線を向ける。
 そこに据えられているのは医療機器だろうか。
 それとも、何かもっと他の目的を持った装置なのか。
 どちらが正しいのかはわからないが、その中にはうっすらと小さな人影が確認できる。
「それらが動けないのであれば、あれも目的の半分も達成することはできません。そう考えれば、まだまだだ、と言うことです」
 それに、と男は呟く。
「肝心のものもできていませんしね……それはでは、彼には十分悩んでもらいましょう」
 そして、あれにはつかの間の自由を。
 この言葉を男は口に出すことはない。
「そう言えば、あれは今どうしていますか?」
 フラガにはもう興味を失った……というように彼は話題を変える。
「現在は……新しくできたデブリの方へ向かっているはずです」
 今まで口を開いてきたものとは別の服装を身にまとった男が口を開いた。
「我々の依頼だとは知らずに、こちらの目的のものを探しているはずです」
 それがいずれ、自分を戒めるものだとは知らずに……と彼はさらに付け加える。その口元には、意味ありげな笑みが浮かんでいた。
「そうですか。知らぬとはいえ、こちらの思惑通りに動いてくれるとは……本当に可愛い人形ですね。なら、そのまま泳がせていてもかまわないでしょう」
 可愛らしい人形を手に入れるにはそれなりの準備が必要だろう。
 特に、それを飾っておくためのケースは念入りに……と。
「……お任せを……」
「かならず、近いうちには」
 この言葉に男達は恭しい態度で頭を下げる。
「期待をしておきましょう」
 そんな男達の態度に満足そうにうなずくと、彼はさらに笑みを深めた。