どうして……とキラの唇がつづる。
「お聞きになりましたわね、アスラン」
 今のがキラの本心だ……とラクスがさらに笑みを深めた。それに関しては、アスランも疑うつもりはない。
 それが嬉しい……というのは少しおかしいのだろうか。
 だが、少なくとも嫌われていない、と言うことだけは確かなようだ、とアスランは思う。もっとも、それは自分のあんな姿をキラが見ていないからなのではないか、とも考える。
 自分の内心を知っていれば、きっと、こんな風には言ってくれなかったはずだ。
「……えぇ……」
 ともかく、ラクスにだけは返事を返しておく。
「なら、これ以上望まれることはなさらない方がよろしいのではありません?」
 というよりも、これで満足をしろと言いたいのではないだろうか、彼女は。
「ラクス?」
 何を言いたいのか……とキラが問いかけてくる。
「簡単なことですわ、キラ。アスランも貴方と同じように悩んでいらっしゃるだけ」
 貴方との関係に……というラクスのセリフに、キラは瞳を揺らす。
「大丈夫ですわ、キラ。少なくとも、今は何もしないと約束をさせましたの」
 だからこそ、自分たちがここにいるのだし、何よりもシン達が一緒にいるのだ、と。
 つまり、自分は彼等に信用されていない、と言うことなのだろう。
 それに関しては、以前自分がキラにしたことや、彼を取り戻すまでの言動を考えれば否定することも何もできない。
「……ともかく、みんな座ったら?」
 そのまま突っ立ってられるのも何か、いや、なんだけど……とキラは付け加える。
「確かに、鬱陶しいですよね、何か」
 さすがはミーア……と言うべきか。
 棘のあるセリフでも、あの口調で言われては怒れないのではないか。アスランですら毒気を抜かれてしまうのだから、他の連中はなおさらかもしれない。
「お茶、用意しないとね。カップ、足りるかな」
 そう言いながら、キラが立ち上がろうとする。
「キラさん、俺が用意をします」
 それを制して、レイが動き出した。
「ごめん、お客様なのに」
「気にしないでください。シンにさせるよりましですから」
 それに、慣れていますから……という言葉はどう判断すればいいのか、と誰もが思う。
「……昨日のことは、悪かったって……」
「あれはステラが悪いよね」
 だから気にしていないよ、とキラがシンに微笑んでいる。そんな自然な表情を、キラはいつから自分に向けてくれなくなったのだろうか。アスランはそれを思い出そうとしてやめた。
 三年前に再会してからのキラは、いつもそうだったことを思い出してしまったのだ。
 それは、全面的に自分が悪い、と言うこともアスランはわかっている。
 そして、その後のことも、だ。
 だが、それでも自分はキラに隣にいて欲しかったのだ。
「……キラ……」
 その思いのままアスランは彼の名を口にする。
「何?」
 無意識の行動だから、だろうか。キラは何のためらいもなく言葉を返してくる。
「……俺のものになってくれとは言わない……ただ、たまに会いに来ることだけは、許してくれるか?」
 それで、キラがまた微笑んでくれるならそれでいい。
「アスラン?」
 何を、と言うようにキラは目を丸くしている。
「この前から、いろいろと考えていたんだ……俺にとって、何が一番重要なののか、って」
 今まで、その結論は出せなかった。
 だが、今のシンとキラのやりとりを見てようやくわかったのだ。
「キラが、いつでも俺を出迎えてくれること……それが一番なんだ。昔みたいに……」
 自分が欲しかったのは《家族》のぬくもりだったかもしれない、と。
「お前の隣にフラガがいるを見るのは、ちょっと辛いけど……な」
 それでも、キラの居場所がわからなかった頃よりはましだ。
 何よりもこうして話ができる。それがたとえ監視付だったとしても、だ。
「……アスランこそ、僕を怒ってないの?」
 おずおずとキラが問いかけてくる。
「最初は怒ってたさ」
 自分以外の誰かを選んだと言うことも含めて……とアスランは正直に言葉を口にした。
「でも……実際にお前の顔を見たら、そんなこと、どうでも良くなったんだよ」
 結局、昔からそうだったしな……とアスランは苦笑を浮かべる。
「アスラン……」
 そんな彼に向かって、キラが困ったようなに視線を彷徨わせた。
「本当に、それでよろしいのですの?」
 不意にラクスがこう問いかける。
「……俺の家族は……もう、キラしか残っていないんですよ、ラクス……」
 だから……とアスランは口にした。
「アスランは、こう言っていますけど……貴方はどう思いますの、キラ」
 今度はキラに向かって彼女は問いかける。
「……僕にとって、アスランは……最初から、家族で親友だから……」
 アスランがこう思ってくれるのは嬉しい。  でも、本当にいいのか……とキラは呟く。
「キラ……」
 彼がそんな風に考えてしまうのも自分のせいだろうな……とアスランは思う。
「でも、アスランがそう思ってくれるなら……こう言えるかな?」
 そんなアスランの視線の先で、キラがふわりと微笑む。
「お帰り、アスラン」
 僕がいうのはおかしいかもしれないけどね……と付け加えるキラの顔が何故かゆがんだ。