二カ所から入手したデーターを付き合わせていけば、自然とブルーコスモスの中枢とその背後にいる者達の氏名と居場所がわかった。
「……ヘブンズ・ゲート……天国の門ねぇ」
 ずいぶんと皮肉な名前だな……と呟いたのはバルトフェルドだ。
「あの方々にとっての《天国》なのかもしれませんわね」
 それは、コーディネイターだけではなくナチュラルにとってのものではない……とラクスは口にする。その言葉に、無意識のうちに棘は含まれていたことに、彼女自身気づいていた。それで、自分が怒っていたのか、とラクスは気づく。
「どちらにしても、我々にとっての《天国》出ないことだけは確かなことだよ」
 デュランダルがきっぱりとこう言い切る。
「だからこそ、それを壊さなければいけないのだ」
 全ての者達の明日のために……とデュランダルは口にした。
「どのような方法を使ったとしても……」
 しかし、彼の口調は苦渋に満ちている……とラクスは思う。その理由は、彼女にも推測できた。最後の戦いの時、自分も同じ決断をしたのだ。
「できるだけ、被害を抑えられるといいのですが」
 ただ、あの時とは違う。
 今回の場合、巻き込まれるのは一般の民衆だろう。だからせめて……と思うのだ。
「それは留意するつもりだよ」
 だが、と彼は続ける。民衆にも真実を知ってもらわなければいけないだろう、と。
「そうだな……それしかあるまい」
 どのみち、こんなことは終わらせなければいけないのだ。そのためには、民衆にも立ち上がってもらわなければいけないだろう……とバルトフェルドが言葉をはき出す。
「オーブの方はどうなっておりますの?」
 ラクスは小さなため息と共にアスランにこう問いかけた。あの国はセイランのせいでかなり疲弊している。その国をまた混乱に陥れてはいけない。そんなことになれば、またブルーコスモスがまた手出してくるに決まっている。それでは、いけないのだ。
「オーブだけは、何があっても中立を保って頂かなければいけません」
 そうでなければ、キラを安心して任せることができない。そう思う。
「少なくとも、軍部に関しては確実にカガリが掌握をしています。他の部署に関しても、この情報が出れば、間違いなくセイラン一派を排斥にかかるのでは、と思いますが?」
 問題なのは、あくまでもタイミングだが……とアスランは口にする。そして、その後のオーブをサポートする人材なのだ、とも。
 それはもっともな意見だろう。
 だが、アスランは自分で自分の首を絞めているとは気づいていないらしい。しかし、ラクスはもちろん、デュランダルもそれに気づいていた。
「そう言うことでしたら、ラクスさまにお願いしましょう。アークエンジェルも、もちろん一緒に」
「議長!」
 デュランダルの言葉にアスランが焦ったように口を開く。だが、彼はそれを無視していた。
「ラクスさまがおいでなら、我々は安心できます。それに、表向きの《ラクス・クライン》は別におりますからね。ラクスさまがあちらにいらっしゃっても、誰も気にしないでしょう」
 そちらに関しては問題はいらない……と彼は笑う。
「……そうですね。いくら強要されていたとはいえ、元々属していた陣営が攻撃を受けているというのは精神的によくないでしょう。彼等も共にお連れください」
 もちろん、必要だと思う医療スタッフは同行させる……とデュランダルは付け加えた。
「そうして頂ければありがたいですわ。アスランはこちらに必要でしょうから……バルトフェルド隊長だけはお貸しくださいませ」
 今までと同じように……とラクスは微笑む。
「もちろんです。我々としては有能な指揮官が一人減りますが……その分、他の者達ががんばってくれるでしょうからね」
 彼がこう言ってしまえば、アスランが口を挟むことはできない。ラクスは、無事にキラ達を戦場とアスランから切り離すことができた事実に、ほっと胸をなで下ろしていた。

「そう……」
 ラクス達の話を聞いて、キラはただ一言こう呟いた。
「また……多くの命が失われるね……」
 それなのに、自分は見ているしかできない。キラはこう付け加える。
「仕方があるまい。今のお前に、地球軍と戦えるわけがないしな。もちろん、フラガも同じだ」
 むしろ、マインドコントロールにしたがって、あちらに行きかねない。それくらいなら、最初から切り離しておいた方が安全だ、とバルトフェルドは口にした。それに、と彼は付け加える。
「カガリはまだ、お前とゆっくり話をしていないからな。彼女の性格を考えれば、よく今まで我慢した、と思うよ」
 でなければ、本気でアークエンジェル捕縛命令を出しかねない……と彼は笑いながら言った。
「まさか……」
 キラはその言葉を信じられなかった。だが、他の者達は納得できたらしい。
「カガリなら、やるな」
「間違いありませんわね」
 二人にこうまで言われていいのだろうか……とキラは思う。この二年あまりで、彼女も成長していたのではないか、と考えていたのだ。
「まぁ、傍観者なのは彼女はもちろん、俺たちも同じだ。だから、そういう連中はひとまとまりになっていた方がいい」
 いろいろな意味でな……とバルトフェルドは笑う。
「どちらにしろ……俺たちに選択権はないな」
 あの三人も一緒でいいと言われただけ、ましだな……とフラガが呟く。
「彼等の場合、マインドコントロールの条件が違うからな。いざとなれば、君達を守るために戦ってくれるだろう」
 そちらも希望してのことだ……と言われて、キラは納得をする。
 彼等ならば確かにそうだろう。
 詳しいことは知らないが、彼等の場合テストケースとして依存の対象が地球軍やナチュラルではなく《フラガ》になっているらしいのだ。
「……もっとも、俺としては彼等を戦場に放り出すのはご免だがな」
 だから、オーブに行くのだ……とバルトフェルドは結論づける。
「あの地であれば、あの三人にももっとよい環境を与えられるかもしれませんわ」
 だから、とラクスも微笑む。
「もちろん、キラもフラガ様も、ですわ」
 二人にも穏やかな環境は必要だろう……とラクスは口にする。
「……戦争からは遠いだろうが……穏やかとは言い切れないかもな」
 いや、間違いなく別の意味でうるさいだろう……とバルトフェルドは笑う。
「……カガリ、ですか?」
「だろうな」
 だが、とキラは思う。
 彼女の存在があの三人によい影響を与えてくれるのかもしれない。ただ、シンと離れることにステラが不安を感じるかもしれないが……と言うことだけが不安だろう。
「……ちゃんと納得させてあげられるといいんだけど……」
 キラは小さなため息をついた。