「本当にお詫びの言葉もない。姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは。ですがどうか、ご理解頂きたい」 デュランダルがこう言って頭を下げる。 「あの部隊については、まだ何もわかっていないのか?」 そんな彼に向かって、カガリは問いかけた。あるいは、彼女も《何か》に気づいているのかもしれない。アスランはそう判断をする。 「ええ……まぁ、そうですね。しかし、だからこそ我々は……一刻も早くこの事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しの付かないことになる前に」 言外に、新たな戦争の口火が切られるのではないか……と彼は告げてきた。 「あぁ、わかっている。それは当然だ、議長」 言葉を返しながら、カガリは拳を握りしめる。 「今はなんであれ……世界を刺激するようなことは、あってはならないんだ! 絶対に」 キラがブルーコスモスの元にいるのであれば、戦争に借り出されるに決まっているだろう。そうなったときに、彼の心は耐えられるだろうか。 カガリはそれを心配しているのだろう。 だが、今のキラは本当にそのような状況にあるのだろうか。アスランはそう思う。間違いなく、キラの隣には《フラガ》がいるはず。そして、ブルーコスモスは他人の精神を操作することにためらいなんて感じていないのだ。 あの時のキラは《ナチュラル》を守る……と言うことになんの疑問も持っていなかった。いや、むしろ当然だ、と考えていたのではないか。 あれだけナチュラルの間で孤立していた……というのにだ。 その時、キラの隣にいたのがフラガだった。そして、彼を支えていたのだとか。 だから余計に、キラは彼の存在を必要としたのかもしれない。 「ともかく、申し訳ないが……しばらくは同行して頂くことになるでしょうな」 デュランダルはこう言って話を締めくくる。 「……それも、わかっている。我々は、イレギュラーな存在だからな」 だから、部屋に留め置かれても仕方がない、とカガリは口にした。 「いえ。戦闘中でなければ、ご自由に動いてくださってかまわないのですよ、姫」 しかし、デュランダルは予想外のセリフを告げる。 「議長?」 いったい彼は何を考えているのだろうか。 「議長……」 どうやら、この艦の艦長であるタリアも同じ思いだったらしい。かすかな非難を滲ませた声で彼に呼びかける。 「姫も護衛の方も、ヤキン・ドゥーエ戦を戦い抜いた経験をお持ちだ。それに反して我々は実戦経験がないのだよ」 違うかね……という言葉にタリアは唇をかむ。どうやら、彼女もそのことに関しては自覚を持っているらしい。 「その経験を我々に伝えて頂けるのであれば、多少の便宜を図ったとしてもかまわないのではないかね?」 それに……と付け加えながらデュランダルはアスランへと視線を向けてくる。その中に、何かの意図が含まれているのはわかるが……それがなんであるのか、アスランにはわからない。 「……議長がそうおっしゃるのでしたら……」 「そう言うことなのでね。艦内をご案内しよう」 言葉と共にデュランダルが立ち上がる。そして、真っ先に移動を開始した。その背中からカガリへと視線を移動すれば、彼女は小さく頷いてみせる。それに頷き返して、アスランもまた移動を開始する。 ザフト製でありながらも、どこかアークエンジェルやクサナギに似た印象を感じるのは、この艦を作った技術者の中にモルゲンレーテでそれらの建造に関わったものがいるからだろうか。 しかし、彼は本当に何を考えているのだろう。 居住区だけであれば、まだここまで不審に思わなかった。 だが、デュランダルはブリッジやさらにMSデッキまで案内しようとしたのだ。 「ZGMF−1000 ザクはもう既にご存じでしょう? 現在のザフト軍主力の機体です」 その性能については、アスランもよく知っている。確かに、ジンよりも動かし安くなっていた。だが、それだけではないはずだ……とも思う。ざっと見回したところ、カスタムも容易にできるようになっているらしい。 限られた数の機体を有効に使うためにはそうするべきだったのだろう。 結局、どのような技術も戦争に関わることに使われるのか。そう思う。 「そして、このミネルバ最大の特徴とも言える発進システムを使うインパルス。技術者に言わせると、これはまったく新しい効率の良いMSシステムなのだそうですよ」 戦闘のために、と言うことだろうか。 同じ事を考えているのか、カガリが唇をかんでいるのがわかる。 「議長は……嬉しそうだな」 「嬉しいというわけではありませんがね。あの混乱の中からみんなで懸命にがんばり、ようやくここまでの力を持つことができた……と言うことは、やはり」 「力か……議長はおっしゃったな。争いがなくならぬから力が必要だと……」 いったい彼女は何を言おうとしているのか。 「カガリ……」 しかし、そのまま放っておくわけにはいかないとアスランは声をかける。 「だが、このたびのことはどうお考えになる!」 アスランの制止の言葉も耳に入らないのか、それとも無視をしているのか。彼女は怒りに満ちた声を上げる。 「あのたった三機の新型MSのために、貴国が被ったあの被害のことは!」 きっと、彼女の脳裏の中にはヘリオポリスでの惨劇がくっきりと刻まれているのだろう。だからといって……とアスランはかすかに眉を寄せた。 「だから、力など持つべきではないのだと?」 デュランダルが落ち着いた声でこう聞き返してくる。 「そもそも、何故必要なのだ! そんなものが、今更!」 戦う道具さえなければ、キラは……というカガリの叫びがアスランにだけは届いた。 「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない! 互いに手を取って歩む道を選ぶと!」 その誓いを得るために、どれだけの血が流されたことか。 アスランも、この言葉には何も返す言葉がない。 「……それは……」 そして、デュランダルも同じであったようだ。だが、彼としてはこのままカガリの言葉を認めるわけにはいかないのだろう。 「しかし、姫」 彼が何かを言おうとしたときだ。 「さすが、きれい事はアスハのお家芸だな!」 憎しみに満ちた声が彼等の耳に届く。 視線を向ければ、あのころの自分たちと同じ年代のパイロットの姿が確認できた。 ゆっくりと振り向いた彼の瞳が真紅に染まっている。 それはどうしてなのか。 それを問いかけるよりも早く、彼等の耳に先ほどの艦を捕捉した……という艦内放送が届いた。 |