「ただいま!」
 言葉と共にアウルが飛びついてくる。その後を、スティングがあきれたような表情で顔を出した。
「ご苦労様。ケガはないね?」
 キラは微笑みながら二人に向かって問いかける。
「当たり前だろう!」
 アウルが頬をふくらませながらこう言い返してきた。自分たちをなんだと思っているんだ、とも。
「それはキラだってわかっていると思うぞ」
 苦笑と共にフラガが口を開く。
「お前らがちゃんと戻ってくるだろう、と言うことはな。それでも、心配していただけだ」
 だから確認したいだけなんだって……と言うセリフを聞いて、アウルは嬉しそうに笑う。
「だから、キラが好きなんだよな、俺」
 そして、こう言って頬をすり寄せてきた。
「ダメ!」
 そんなアウルの髪を脇から伸びてきた手が掴む。そして、そのまま引っ張った。
「いてぇ!」
 確かに、あれは痛いだろう……とキラも思う。しかし、その行為をした本人はそう思っていないらしい。
「キラに、そう言うことをしていいのは、ネオだけなの!」
 くっつくのはいいが、頬をすり寄せるのはダメ……という彼女に、キラだけではなくフラガも笑いを浮かべていた。
「なんでだよ!」
 アウルだけは納得できないというようにこう叫ぶ。
「ステラだって、よくやっているだろうが!」
 それなのに、自分だけはどうしてダメなんだ……とアウルは主張をした。
「……シンが、そう言うことは……好きな人同士でしないとダメだって……」
 だから、ステラもこれからシンにだけするの……でも、キラに抱きつくのはいいんだよね? と彼女は付け加える。
「そのくらいはかまわないぞ。お前らなら、な」
 今までだって邪魔しなかっただろう? とフラガは笑う。
「家族なら、そのくらいは当然のことだしな」
 そうだろう、と問いかけられてキラは素直に頷く。自分にとって《家族》といえるのは、間違いなく彼らしかいないのだから。血のつながりはなくても、彼等は間違いなく大切な《家族》だといえる。
「俺ら、家族?」
 アウルも同じ気持ちなのだろうか。こう問いかけてきた。
「ネオとキラがそう言っているんだから、そうなんじゃねぇ?」
 スティングが冷静に――だが、うれしさを隠せない口調で――こう言う。
「なら、ずっと一緒?」
 ステラがフラガに近づきながら、こう問いかけている。
「ステラが望むならな」
 もっとも、女の子は別の野郎にもっていかれるもんだが……と彼はしみじみとした口調で付け加えた。
「ムウさん……それじゃ、ただの親父です」
 思わず、キラはこうつっこんでしまう。
「いいだろう。どうもあの赤目の小僧に、もう半分持って行かれているような気もするし」
 そのくらい……という彼が、ステラをかわいがっていたことは知っている。だから、そんな気持ちになっても仕方がないか、とキラも思う。
「でも、シン、一人だって」
 だから、シンも一緒だといいな……とステラは口にする。
「そうだな」
 あいつが望むなら、それでもいいぞ、とフラガも言い返す。そんな風に《家族》が増えていくのはいいな、とキラも思うのだ。
「みんな、一緒」
 それが許されるのかどうかはわからないが、そうなって欲しい。キラはそう願っていた。

 そのころ、ザフトの基地内は混乱に近い状態にあった。
「……まさか、ここまで出てくるとはね」
 まだ《教育途中》だというエクステンデッド達はもちろん、彼等に行われた《処理》のデーター。
 何よりも、それを指示した組織のデーターがあったことはまさしく福音だとしか言えないだろう。
「これで、この戦争を終わらせられるかもしれんな」
 あるいは、二つの種族の間の溝を埋めていくことも可能かもしれない。それらは、全て奴らの思想操作によるものでもあるのだから、とデュランダルは呟く。
「そうだと、よろしいですわね」
 報告を聞いていたラクスがこう告げる。
「そうさせるのだろう、ラクス」
 そのために、皆ががんばっているのだから……とバルトフェルドが笑った。
「それもわかっておりますわ。ただ……どのような生き物でも、追いつめられたときは死にものぐるいになるものでしょう? それに……最悪、全ての人々を巻き込んで自滅なさる可能性も否定できません」
 自分たちの存在が消えるのであれば、そのくらい……と考えるものがいたとしてもおかしくはない……と彼女は付け加える。
「確かに……それが一番心配なのですよ」
 パトリック・ザラのように全てを滅ぼそうとするのか。それとも、人類を絶望に陥れるような情報を流すのか。
 自分たちの手の中にあった利権特権を全て取り上げられることになるのだ。それならば世界を道連れにと考えるものがいたとしてもおかしくはないだろう。デュランダルもそう考える。
 いや、実際、それに近い行動をした男を知っているのだ。
「オーブの方でも動きがあったようですしね」
 その報告を持ってくると言っていたが……とデュランダルはため息をつく。
「ひょっとして、それはアスランなのかな?」
 報告にくるのは……とバルトフェルドが問いかけた。
「他の者では、時間がかかりすぎるし、万が一のことを考えると、ね」
 アスランであれば、間違いなくセイバーを使用するだろう。もし、途中で地球軍と遭遇しても対処ができるはずだ。そう言われてしまえば、妥協するしかない。
「では、しばらくアークエンジェルを他の場所に移動させておいた方がいいかもしれませんわね」
 カウンセリング途中の不安定な精神状態の彼等を混乱させるようなことはさせたくない。ラクスはそう告げる。
「それについては、考えてありますよ」
 いざとなれば、アークエンジェルごと宇宙に行かせてもいいだろう。その後は、イザーク達に護衛させて本国へ向かわせてもいいのではないか。そうも考える。
「どちらにしても彼等は一度、本国へ行ってもらわなければならないしね」
 根本的な治療を行うためにはその方がいい……と医師が判断したのだ。自分が戻るときに共に連れて行った方が余計な声を聞かせずにすむだろうと思っていたのだが、それを早めた方がいいのかもしれない。
「その前に、データーの解析が重要かな」
 本当、キラが手伝ってくれれば簡単なんだがね……と言うバルトフェルドの言葉にラクスもまた頷いていた。