「……いい加減にしろよな……」
 言葉と共にカガリはデスクを殴りつける。
「落ち着け、カガリ」
 アスランの冷静な声が耳に届いた。
「わかっている」
 しかし、どうしてもどこかで怒りを発散させないわけにはいかないのだ。でなければ、それこそ連中の前で爆発してしまうだろう。
 それで足をすくわれては意味がない。
「お前の前だけだろうが、こんな事」
 お互いに裏も表も見せてきた相手なのだ。これで恋愛感情があればもっと違う関係になったのだろうが、そんなものは最初から存在していない。それを期待している連中がいることがわかっていても、だ。
「お前だって、私の前ではネコを脱いでいるじゃないか!」
 フラガに対する恨み辛みを結構聞かされているような気がするのだが……とカガリは言い返す。
「そうか?」
 本人は気づいていなかったらしい。かすかに目をすがめながらこう問いかけてくる。
「気づいていなかったのか、お前は」
 らしいといえばらしいがな……と笑えばアスランはむっとしたような表情を作った。それもまたある意味、日常だった。
 しかし、今はあのころとは違う。
 自分たちの立場は、あのころとはまったく変わってしまったのだ。カガリがそう心の中で呟いたときだ。
「カガリ様」
 言葉と共にトダカとキサカが執務室に入ってくる。
「どうかしたのか?」
 その周囲に漂う緊張感を感じ取って、カガリはこう問いかけた。
「……厄介な情報が出ました。もっとも、これを使えばセイランをはじめとした者達を処罰することは可能だ、と思われますが」
 最悪、オーブの中立がまやかしだったと言われかねない……とキサカが口にする。そのまま、彼はさりげなく視線をアスランへと向けた。その意味がわからない彼ではないだろう。
「気にすることはない」
 必要がなければ報告はしない……とアスランは口にした。
 だが、カガリには彼の言葉の裏に別の言葉が隠されているような気がするのは錯覚だろうか。
「……では……」
 キサカ達もそれに気づいてはいるのだろう。微妙な口調でこう言ってくる。それでも、彼等は感情を表に出すことはない。それは、重ねてきた経験の差なのだろうか。
「セイランをはじめとする親地球連合派の者達とブルーコスモスとの通信記録です」
 かなり昔のものから残っていました……とキサカは冷静な口調で告げた。
「……見せてくれ」
 カガリはこう命じる。それに二人は重々しい仕草で頷いて見せた。

「キラ!」
 部屋から出た瞬間、少女の声が耳に届く。
「ステラ、どうしたの?」
 そう言いながら、視線を向ける。そうすれば、彼女は可愛らしいワンピースを身に纏っていた。
「もらったの。似合う?」
 こう言いながら、彼女はキラの前でくるりと回ってみせる。
「可愛いよ」
 実際よく似合っているし……と思いながら、キラはこういった。その一言だけで、ステラはさらに嬉しそうな表情を作る。
「シンに見せたら、喜んでくれるかな?」
 アウルとスティングは、適当にしか相手をしてくれなかったから……といいながら、キラにすり寄ってきた。その無邪気な口調に、キラもまた微笑みを返す。
「喜んでくれると思うよ。でも、きっと今は仕事中だから、後でね」
 勤務が終われば、彼は毎日ここに顔を出している。だから、今日もきっとくるだろう。そう思ってのセリフだ。
「うん! じゃ、その前にネオに見せてくる」
 ネオは今暇かな? と彼女は小首をかしげてみせる。
「どうだろう。でも、きっと、お昼になれば食堂にくるよ」
 そこで待っていよう? と言えば、ステラは小さく頷いて見せた。それならば、移動しようか……とキラが思ったときだ。
「やはり、キラの所でしたのね」
 人を安堵させる響きを持った声がキラの耳に届く。
「ラクス……」
「お似合いになりますでしょう?」
 この言葉から、ステラが今身に纏っている服は彼女が用意した物なのだ、と理解をした。
「お可愛らしい方ですから、選びがいがあるとラミアス艦長とも話しておりましたの」
 楽しませて頂きましたわ……と彼女は笑う。
「……ラクス……」
 しかし、本当にそれだけなのだろうか。
 彼女が見た目通りの人間ではないことを、キラはよく知っている。だから、ついついそんなことを考えてしまうのだ。
「おしゃれをしたことがない、というのは女性として悲しいものですわ。ですから、お手伝いをさせて頂こうと思いまして」
 いけませんでした? と彼女はさらに笑みを深める。
「そういうわけじゃないけど……」
「なら、そんなお顔をなさらないでくださいませ。ステラさんも悲しみますわ」
 せっかくお似合いになっていらっしゃるのですし……とラクスは付け加えた。
「キラ?」
 そして、ステラも不安そうにキラを見上げてくる。
「いつの間に、こんなに仲良くなったのかな……って思っただけだよ」
 ただそれだけ……と口にすれば、ステラは安心したらしい。もっとも、ラクスはごまかせないが。だが、それでも、隣にいる少女が不安を忘れてくれるならばいい、とキラは思う。
「ラクスね、ステラのこと、好きだって」
 キラもネオも、スティング達も! と彼女は報告をしてくる。
「よかったね」
 彼女がそういうのであれば、嘘はないはず。そう思いながら、キラは頷いてみせる。それだけで、ステラはさらに笑みを深めてくれた。
「ご一緒に、お茶にいたしましょう?」
 ラクスが提案をしてくる。期待に満ちたステラの視線に、キラは静かに頷いて見せた。