「……彼等にかけられたマインドコントロールは、それほど強いものなのかね?」 医師の報告を耳にしたデュランダルが、こう言って眉を寄せる。 「それでも、ムウ・ラ・フラガはまだ解除が可能です。しかし……」 キラをはじめとした者達は難しいだろう……と医師は口にした。 「特に、キラ・ヤマトに関しては……既に彼の自我の一部となっておりますので……」 無理矢理解除すれば、キラの自我が崩壊するかもしれない……と彼は付け加える。その言葉は苦渋に満ちていた。 「そうか」 それはある意味、予想していたことではある。というよりも、他の者達の現状を考えれば、当然だろう。 「エクステンデッドの三人に関しては、さらにデーターを集めて、それから……と言うことになります。ただ、必要な機材が全てそろっておりますので、彼等の命には支障がない事だけが好材料かと」 「わかった。では、そちらについては引き続き頼む」 特に、フラガに関してはできるだけ早くマインドコントロールを解除して欲しい、とデュランダルは付け加えた。そうすれば、キラ達も協力してくれるのではないか……と判断しての言葉だ。 「了解しました」 「他の者達も、できる限りのことはしてやってくれ」 できれば、地球軍の情報に関する抑制だけは解除してやって欲しい……とデュランダルは付け加えた。 「努力させて頂きます」 医師は態度をただすと、こう言い返してくる。 「我々は、もう二度と、彼等のような被害者を出したくないな」 「そうですね」 デュランダルの呟きに、医師は頷き返す。 「では、これで」 彼はこの言葉と共にデュランダルの前を辞していく。その後ろ姿が完全に見えなくなったところで、デュランダルは視線を流した。 「レイ」 そっと呼びかけるとカーテンの影から彼の姿が現れた。 「ギル」 「だ、そうだよ」 日常生活には支障が出ないだろうが……とデュランダルはため息をついてみせる。 「こうなると、アスランがこの場にいないことはよいことだ、と言えるかもしれませんね」 もっとも、問題を先送りしているだけかもしれないが……とレイは口にした。 「そうだな」 アスランがこの話を聞けばどのような反応を示すか。それを予想するのは難しくない。 「少しでも、時間を引き延ばせればいいのだが……」 だが、それは難しいだろう。それはわかっていた。 「……話があるって?」 フラガから呼び出されてバルトフェルドがにこやかな表情で彼等の前に顔を出した。 「あぁ……」 しかし、それとは裏腹にフラガの表情はさえない。いや、どこか苦しげだ……とも言えるだろう。 「どうかしたのか?」 その表情は、先日、彼に地球軍の機密を問いかけたときのそれによく似ている。 「……フラガ?」 無理をしているのではないのか、とそれだけでもわかった。しかし、バルトフェルドの声にキラが小さく首を横に振ってみせる。 「キラ?」 「……どうしても、話さなければならないこと……だそうです」 だから、とキラは続けた。フラガが話すまで、待って欲しい……とも。 そういうキラも、どこか苦しげだ。 それでも、彼等はそうすることを選択をしたのであれば、自分は聞かなければいけない。バルトフェルドはそう判断をする。 「……コーヒーを持ってくるんだったな」 待つのはいいが、手持ち無沙汰なのはちょっと辛いか……と思う。 「……普通のコーヒーでよければ、棚にあります……」 フラガを支えるように寄り添いながら、キラがこう告げた。そう告げるときには、少しだが楽そうだ。 あるいは、それに関してはフラガよりも抑制が弱いのかもしれない。二人の向かい側に腰を下ろしながら、バルトフェルドは判断をする。 それならば、あの三人はどうなのだろうか。 後で確認をしてみた方がいいのだろうか……とそう考えたときだ。 「……あの三人と……同じ処理を受けた連中が……ロドニアにある、ラボにいるはずだ……」 データーも消去されていなければ、そこにあるはず……とフラガが告げる。 その額には冷や汗が滲んでいた。 「……そうか……」 確かに、それは有意義な情報だ、と思う。 「あいつの、居場所も……そこなら、わかるかもしれない……」 さらに付け加えられた言葉は、おそらくブルーコスモスの盟主に関するものだろう。しかし、それは彼がかなり無理をして告げたセリフなのではないか。 「……そして、その後ろにいる人たちも、です」 不意に、キラが付け加えた。 「キラ?」 「……お前……」 その言葉に驚いたのはバルトフェルドだけではない。フラガも同じようだった。 「どうしてなのかはわかりません……ただ、僕の中にそのデーターがあります」 そして、それに関しては抑制がきかないらしい。あるいは、最初からキラがそれを手に入れるとは思わなかったからなのかもしれないが……とキラは付け加える。 「そうだろうな」 ため息と共にフラガはき出す。 「……ラボの場所については……あの三人が知っている……」 許可が出るなら案内させてやってくれ……と言う言葉にバルトフェルドは頷く。 「任せておきたまえ。だから、君達はおとなしくカウンセリングを受けること。いいね?」 地球軍と戦うことができなくても、普通に生活を送るのに支障はなくなるはずだ……と明るい口調を作って告げた。そうなれば、こちらも心配することなく話を触れるから、と。 「馬鹿話ができる相手は重要だからね」 そう言いながら、バルトフェルドは腰を上げる。 「だから、後のことは心配しなくていい」 取りあえず、手配をするから……と告げて部屋を後にした。その瞬間、フラガの腕がキラをきつく抱きしめるのが目の端に写る。 「……彼等にとって、何が幸せなのか……と言われれば悩むが、ね」 おそらく、お互いの隣に相手がいればそれだけいいのかもしれない。だが、それでは自分たちが楽しくないだろう、と思う。 「せいぜい、がんばらせて頂くしかないだろうな。できることを」 この呟きは吐息にとけた。 |