「……自分がオーブへ、ですか?」
 デュランダルの言葉を聞いた瞬間、アスランは思わず眉を寄せてしまった。
 ただでさえ、キラと一緒にいけなかったのだ。その理由はもっともだとはいえ、面白くない。それでも、近くにいれば情報が耳に入ってくるだろう。だから、それで我慢しようかと思っていた。
 しかし、オーブに行ってしまえばそれも難しいのではないか、と思う。
「君が一番適任だろう、と思うのだがね」
 しかし、デュランダルはそんなアスランの内心を気にすることなくこう口にした。
「オーブの内政について、我々の中で一番よく知っているのは君ではないかな?」
 カガリのボディガード時代に身近に感じていただろう……と言外に彼は問いかけてくる。
「そうかとは思いますが……」
 だが、自分はキラの側にいたいのだ。
 直接会うことはかなわなくても、その姿を垣間見れる場所にと。
「君が何を考えているのか、わかっているつもりだ」
 ため息と共に、デュランダルがこう言ってくる。
「しかし、これもまた、彼等のためだ……と言っても、無視をするのかね?」
「議長?」
 キラのためとはいったい何を指してのことなのか。
「彼等の精神状態を安定させることはプラントのものでもできるだろう。だが、彼等を安全に保護することは本国では難しいだろう」
 オーブが一番適地なのだが……と彼はため息をつく。
「……現状では、難しい、と?」
 確かにそうだろう。そのくらいはすぐにわかる。
 セイランがブルーコスモスとつながっていた。
 そうなれば他にもつながっている家があるのではないか。
「姫が足場をしっかりと固められているならば問題はないのですがね」
 もっとも、今であれば膿を絞り出すことも簡単なのではないか、と彼は付け加える。ユウナが失敗をし、混乱をしている今であれば、と。
「だから、君にたのみたい。もちろん、他にも数名付けるが」
 それでも、オーブという国の組織についてよく知っているのは君だろう……とデュランダルはさらに言葉を重ねてきた。
 そこまで言われてしまえば、アスランに《否》と言える余地はほとんどない。
「……わかりました……」
 だからといって、心の底から納得できたわけではないのだ。
 自分が離れている間に、キラとあの男の結びつきがさらに強まってしまえば、自分のはいる余地はなくなってしまう。
 いや、それよりも、自分と彼の立場を今すぐにでも取り替えたい。
 それができるのであれば、オーブに行くことも厭わないのだが……とアスランは心の中で呟く。
「頼むよ」
 そんなアスランの内心を知っているのだろうか。デュランダルは明るい口調でこう言い返してきた。

 フラガ達がいない、一人だけの時間。それを壊したのは、小さなノックの音だった。
「……失礼します」
 言葉と共にザフトの制服を身に纏った少年が室内に足を踏み入れてきた。その顔を見た瞬間、キラは思わず体をこわばらせる。
「どうかなさいましたか?」
 そんなキラの反応に気づいたのだろう。彼はこう問いかけてきた。
「……何でも、ありません……」
 こう言い返すものの、キラは彼の顔から視線を放せない。
 あの悲しい人でないことは、その年齢からも推測できる。
 しかし、無関係だ、というにはあまりにも似すぎているのだ。
「そうは思えませんが……」
 キラの言葉に、彼は異論を返してくる。どうやら、自分の態度からどうしてもそれが伝わってしまっているらしい、とキラは判断をした。
 だからといって、『ラウ・ル・クルーゼと、どのような関係があるのか』などと問いかけるわけにはいかないだろう。
「本当に何でもありません。気になさらないでください」
 何とか微笑みを作ると、キラはこう言い返す。
 だが、彼の方も何かを決意してここに来たらしい。
「俺が……誰かに似ているから驚かれたのでは、ありませんか?」
 しかし、彼はまっすぐにキラの図星をついてくれた。
「……君……」
 どうして……とキラは思わず呟いてしまう。
「俺が……ラウと同じ存在だからです」
 そんなキラに向かって、彼はこう口にした。
「俺も……クローンですから」
 だから、と彼は付け加える。その意味がわからないキラではない。
「僕を、殺しに来たのですか?」
 クルーゼを殺したのは自分だから、とキラは心の中で呟く。それが、彼を止めるために、あの時自分ができた唯一のことだと思っていても、だ。それでも、その行動を憎む相手がいるという事も、キラはわかっている。
「いえ。そういうわけではありません」
 彼はきっぱりとこう言い返す。
「ただ……あの人の最後を知りたかっただけなのです」
 貴方が一番ご存じのはずだから……と言う言葉に、キラは視線を落とす。
「そうですね……」
 自分しか知らないのだ、とキラは思う。あの時のあの人の言葉は……と。
 それでも、彼にそれを伝えていい物なのだろうか。キラは悩む。
「……何か?」
「貴方は……あの人と同じ存在だ、とおっしゃいました。では、同じ道を選択されるのですか?」
 それとも、別の道を探しているのか。それを知りたい、とキラは言い返す。
 少なくとも、今の彼の瞳はあの人とは違う。だから……と心の中で付け加えた。
「キラさん?」
 しかし、それはまったく予想していないセリフだったのだろうか。彼が驚きを滲ませた声でキラの名を口にした。
「僕には……貴方があの人と同じだとは思えないので」
 だから……と付け加えれば、彼の目が丸くなる。
「……今まで、そんなことを言われたことはありませんでした」
 そして、呟くようにこう告げた。