フラガとキラ、それにエクステンデッドの三人をアークエンジェルへと移動させたのは、そちらの方が落ち着けるだろうと判断してのことだった。 そして、アークエンジェルにはミネルバを随行させ、ディオキアへと一足先に帰還させる。 「申し訳ないね、姫」 その艦影を見送りながらデュランダルはカガリへと呼びかけた。 「いや……仕方がないことだ、とわかっているつもりだ」 本音を言えばついていきたい。 だが、自分にはしなければならないことがまだ残っている。 「それに、あそこにはラクス達がいるからな」 彼女をはじめとした者達は信頼できる、とカガリは思う。 「ついでに、アスランをこちらに残してもらえたし……」 それだけでも、彼等にとってはいい環境なのではないか……とカガリは付け加える。 「……彼の場合、少し冷静さを取り戻した方がいいか、と思ったのだがね」 しかし、今回のことは逆効果だったかもしれない……とデュランダルはため息をつく。その理由もわかった。 「それでも、今のあいつらには必要なことだろう、と思う」 静かな環境。 そして、自分たちがどれだけカガリをはじめとした者達に必要とされていたのか……を自覚することが、だ。 それがあれば、彼等もまた安心して自分たちのそばに腰を下ろしてくれるかもしれない、とカガリは思う。それが、本当に自分の希望でしかないとわかっていても、だ。 「そうだね。少なくとも、彼等の精神を調べる上でアスランの存在はマイナスにしかならない」 だからこそ、自分はここに彼を残したのだ、とデュランダルは頷く。 「アスランも、そう言われてしまえば納得しないわけにはいかないようだったしね」 もっとも、目を離すことはできないだろう……と付け加えられた言葉に、カガリも同意を示す。 今回のことに《キラ》が関わっている以上、あの男が何をしでかすかわからないのだ。無意識とはいえ、キラの中に植え込まれた枷を刺激するような言葉を口にすることぐらいはやりかねない。前の時もそうだったし……とカガリは心の中で呟く。 「どちらにしても、事後処理には時間がかかりそうだね」 カガリの存在があっても《オーブ》国内の混乱を沈めるのは難しいだろう。ユウナの言葉を信用すればなおさらだ。 「だが、いったい、誰を叩きつぶせばいいのかわかっただけでも、ましかもしれないな」 これからも地球軍と戦わなければいけないというのは事実だ。だが、その背後に隠れているものがあらわになっただけでも気分的に楽なのではないか……と思う。 しかし、逆に言えばそれはそれで厄介かもしれないが……とも考えられるが。 「確かにそうだね」 今までのようにトカゲのしっぽだけを叩くわけではない。ようやく、頭を叩くことができるのだ、とデュランダルも頷いてみせる。 「と言うわけで姫。彼等の元に赴く前に、つまらない話を終わらせてしまいましょう」 政治的な……と彼は提案をしてきた。 「そうさせてもらおう」 自分はオーブに戻らなければいけない。 その時にはザフトから誰かついてくることになるだろう。それに関しても、どこまで介入を認めるかを話し合わなければいけない。 できれば、バルトフェルドがいいのだが……とカガリは考える。しかし、キラ達のことを考えれば、難しいか……とも、心の中で付け加えた。 「……ここって……」 何か、変な雰囲気だよな……とアウルが呟く。それにスティングも頷いて見せた。 「でも、ネオとキラと一緒だから、いい」 シンもいてくれるし……とステラだけが微笑んでいる。 「まぁ、そうだけどな」 確かに彼等と引き離されなかったことだけは嬉しいと思う。あの二人さえいてくれれば、自分たちはどこにいようともかまわないのだ、と。 しかし、今、あの二人は別の場所にいる。 それが不安だと言えば不安なのだ。それでも、あのピンクの髪の女性は信じられると思う。 それにしても、あれが本物の《ラクス・クライン》だったとは。言われてみれば納得できるな、とスティングは心の中で呟く。この前見た偽物とはまったく雰囲気が違うしな、とも考えたときだ。 「……失礼」 ノックと共に一人の女性が姿を現した。その人物は、何故かオーブの軍服を身に纏っている。 「何か用ですか?」 オーブ軍が何を……と思いながらスティングはこう問いかけた。 「あぁ。これは建前上、着ているだけよ」 くすり、と彼女は笑いを漏らすとこう告げる。 「それとね。用事はこれ」 そう言いながら、彼女が差し出してきたのはやはりオーブの軍服だった。 「地球軍のそれでもかまわないけど、これからディオキアに向かうから、こちらの方に着替えてもらった方がいいと思うの」 本当は私服の方がいいのでしょうけど、と彼女はさらに笑みを深める。 「……着替え?」 「そう。サイズは合っていると思うわ」 だから、着替えてくれると嬉しい……と彼女はさらに言葉を重ねてきた。 そんな彼女の態度にスティングは内心驚く。自分たちがどんな存在か知っているはずなのに、あくまでも普通の存在として接してくれているのだ。捕虜である以上、命令されれば従わなければならないのに、彼女の言葉はあくまでも《依頼》という形を取っているというのもまた理由の一つではある。 「それと、ムウとキラ君は、もうじき戻ってくると思うの」 少なくとも、ムウは……とという口調には親しみさえ感じられた。 と言うことは、彼女もまた二人の知り合いなのだろうか。 どちらにしても、自分たちには与えられたデーターが少なすぎる。目の前の軍服にしても同様だ、とスティングは判断をした。 「……ネオが戻ってきてから決めてもかまいませんか?」 自分たちは、あくまでも彼等の指示に従う存在だから、と言外に付け加える。 「もちろんよ」 ふわりと微笑む彼女の表情は、心の中にあるある面影と重なった。そう思っているのは自分だけではないらしい。特にアウルは、彼女から視線を放せないようだ。 「……艦長さんが、何でここにいるわけ?」 同じようにオーブの軍服を身に纏った男に連れられて戻ってきたフラガが、彼女の存在を見てこう呟く。 「艦長?」 「……そんな偉い人だったわけ?」 ステラとアウルの疑問はもっともだとスティングは思う。彼女の態度からはそんなことは感じられなかったのだ。 「あなた達が置いてこれなかったという子供達の顔を見たかっただけよ」 平然と彼女はこう言い返す。その横顔をスティングはただ見つめていた。 |