「カガリ、そこをどいてくださいな」 ラクスが冷静な声でこう指示を出してくる。 「あ……あぁ」 それに、カガリは慌ててキラの側を離れた。キラもまたベッドから立ち上がろうとしたのだが、 「キラはそこに。フラガ様を膝枕してあげてくださいませ」 その方がフラガが安らげるだろうから……とラクスがキラの行動を制止した。 「……何があったんだ?」 バルトフェルドと共にラクスの手助けをしながら、カガリが彼女に問いかけている。 「たいしたことではございません。ご本人も気づかれなかったあることが、表に出てきてしまった……と言うことですわ」 だから、少し休めばいいのではないか……と彼女は付け加えた。 「ですから、キラ。フラガ様が落ち着かれるまで、お話をしましょう?」 今まで、何をしてきたのか……と付け加えられた瞬間、キラは視線を落とす。 「そうだな。それがいい。そっちの少女もいろいろ教えてくれるだろうしな」 バルトフェルドもこう言って頷いている。だが、はっきり言って、彼女たちに話すべき内容ではない、とわかっているのだ。自分がしてきたことは、ザフトにとって見れば許し難い内容も多いのだし、と。何よりも、自分は彼女たちを捨ててフラガの元へ走ったのだから、と。 「フラガ様と一緒にいらっしゃったのであれば、特に危険なことはされていないとは思いますけど」 ふわりと微笑まれて、キラはいたたまれなくなってしまう。だが、フラガの頭が膝の上に乗っている以上、逃げ出すわけにもいかない。 「何って……別に……」 面と向かって問いかけられればすぐに答えを見つけることができなかった。つまり、そう言うことしかしてこなかった……と言うことなのだろう、自分は。 「ムウさんの側にいて……ステラ達の相手をしていただけ」 それに伴って、OSの整備をしたり、シミュレーションの相手もしたが……とキラは心の中で呟く。 「キラね。たくさんいろいろなこと、教えてくれたの」 そんなキラの内心を読み取ったのか。それとも、自分がキラ達をフォローしなければいけないと判断したのか。ステラがこう告げる。 「ステラだけじゃなくてね、アウルやスティングにも」 それでね、とステラはさらに笑みを深めた。 「シンのこともね。キラはたくさん聞いてくれたの」 だが、あることを思い出したのだろう。ステラは困ったような表情になった。 「……シンからもらったハンカチ、なくしちゃった……」 なくしちゃいけないって思っていたのに……と彼女は付け加える。 「そんなこと、気にしなくても……」 シンが慌ててこういった。しかし、ステラは今すぐにでも泣き出しそうな表情を作る。 「ステラ」 そんな彼女に、キラはそっと声をかけた。 「僕が使っているロッカーの引き出しの二段目」 覗いてごらん……と付け加えれば、彼女は小首をかしげる。それでも、逆らうと言うことを知らない少女は素直に指示されたとおりの行動を取った。 中に入っている者に気づいたのだろう。その表情がすぐに明るくなる。 「キラ!」 「落としていたのを見つけたから。戦闘が終わったら返してあげようと思っていたんだ」 正確には、彼女が《シン》の事を思い出したら……だったが。 「ありがとう、キラ!」 見て、シン……とステラはそれをシンへと差し出している。そんな彼女に向かってシンは小さく頷き返していた。 「……本当は、違うのでしょう?」 フラガから説明を聞いていたのか。ラクスがこう問いかけてくる。そんな彼女に、キラは曖昧な笑みだけを返した。 「本当に、キラは変わってないんだな」 安心した、とカガリは付け加える。 「フラガがいて、キラを変えるようなことをするわけないな」 そうだろう、とバルトフェルドが笑う。 「そうですわよ。ですから、その意味では安心しておりましたわ」 どのような状況にあろうとも、フラガがかならずキラを守るだろう。それだけは信じていたのだ、とラクスも頷く。 「そうだな。それだけは確実に安心できていたな」 バルトフェルドもその言葉に同意を見せる。 「ところで、キラ」 ふっと何かを思いついたというように彼が言葉を口にした。 「……何でしょうか……」 それにキラは小首をかしげながら言葉を返す。 「フラガがどこに連絡を取っていたか、わかるかな?」 こう問いかけられて、キラは記憶の中を探る。そうすれば、すぐに答えは出てきた。 「キラ?」 しかし、それを言葉にすることができない。 そうしようとすれば、何故か呼吸をすることもできなくなってしまうのだ。 「キラ、どうした!」 慌てたようにカガリがキラの体を抱きしめてくる。 「……すまなかった、キラ……」 その後を、バルトフェルドの声が続いた。 「さっきの質問の答えを口にしようとしなくていい」 そうすれば、呼吸ができるようになるはずだ……と彼は付け加える。 「キラ……大丈夫?」 顔青い……とステラがキラの顔をのぞき込みながら、こう口にした。 「大丈夫だよ……」 こう言い返す声は、すんなりと出る。同時に、呼吸も楽になった。 「……バルトフェルド隊長……」 カガリが非難をこめた声で彼の名を呼んでいるのが聞こえる。 「フラガの様子を見て、まさかと思ったんだが……同じ状況だった、と言うわけだ」 しかし、それに対し、しれっとした口調で彼は言い返す。 「もっとも、キラの方が抑制は弱いようだがな」 だからといって、喜べるわけではないが……と彼は付け加える。 「それを何とかしなければならないが……それは、戻ってからだな」 他にもしなければいけないことがあるか……とバルトフェルドはため息をつく。 「これからの方が、大変だぞ」 そんな彼に、キラは無意識のうちにフラガの体を抱きしめていた。 |