「……で、どこから話せばいいんだ?」 今更隠し立てする気はない。フラガの態度がそう告げている。 そんな彼の態度をデュランダルは好ましいと感じていた。 いや、ラクスやバルトフェルド達の話を聞いているときにも同じように感じていたのだ。そして、今はいない《彼》の話からも。 考えてみれば《彼》ほど矛盾に満ちた存在はいなかったのではないだろうか。 世界を憎んでいると言いながらも、その実、彼は誰よりもこの《世界》を愛していたのではないだろうか。しかし、自分は何もなす事ができずに命を終えるしかない。その思いが狂気に走らせたのだろう。 そんな彼が、本心から執着していたのは、自分やレイではないことをデュランダルは知っていた。 彼が本心から執着していた存在は二人。 彼等の中に《自分》という存在を刻みつけたいのだ、と彼は笑って告げた。 その二人が二人とも、地球軍によって利用されていた……というのは偶然なのだろうか。 どちらにしても、全てが終わったときに、自分は彼等に問いかけたいと思っていた一言がある。 『ラウ・ル・クルーゼという男を知っているか』 その時に、彼の願いが叶ったのかどうかわかるだろう、とデュランダルは思う。 しかし、それは今ではないのだ。 「……君が目覚めたときから……と言いたいが、それでは時間がいくらあっても足りないかな」 そう告げるデュランダルに、フラガは苦笑を返す。 あるいは、彼の中ではいまだ整理がついていないのか……とその表情から判断をした。 「では、キラ君がいた装置、そしてその三人についてのことに絞ろう。その他のことは、君達を安全だと思える場所に移動してからゆっくりと話を聞かせてもらおう」 まず優先すべきなのはそのことだろう。 彼等が普通の《ナチュラル》と違っているのは、見ていればわかる。 だが、ステラという少女を見てもわかるとおり、どこか尋常ではないのだ。それはどうしてなのか。興味がないと言えば嘘になる。 同時に、それを使えば地球軍の暗部を公にすることができるかもしれない。 そう考えてしまう自分がいることにもデュランダルは気づいていた。 「……この三人については、ブルーコスモスの連中がナチュラルでも外的要因を加えればコーディネイターに負けない存在になれる……という実験の結果だ。俺が知っているだけでも、前の大戦に三人、投入されている。他にもいたはずだが……こいつらを守るだけで精一杯だったんでな」 何よりもキラを……という言葉が隠されているように感じたのは、デュランダルの錯覚ではないだろう。 「前の連中は、投薬メインだったらしい。そのために、連中の言う《運用時間》に制限が出て、実戦に使うのに支障があった、と言っていたな」 ラクス達であれば、覚えがあるのではないのか。フラガはそう付け加える。それに、ラクスやバルトフェルド、それにアスランまでもが頷いてみせる。 「その反省から、この三人は別の方法で体調を管理されている。もちろん、投薬も必要だが、メインは《ゆりかご》と呼ばれる装置だ……とフラガは告げた。 「体調の他に、記憶の操作もそこで行う。連中に言わせると、パーツには余計な記憶は必要ないんだとか。もっとも、キラに細工をさせておいたから、ステラのように本当に大切だと思っていれば、思い出すこともあるがな」 自分にできた事はそのくらいだ……とフラガは自嘲の笑みを口元に刻む。 「そんなことはないだろ!」 即座に、脇にいた少年の一人が口を開く。 「アウル……黙っていろ」 「いやだね」 フラガの制止に、アウルと呼ばれた少年は首を横に振る。 「ネオとキラだけが俺を一人の《人間》として扱ってくれた。いや、俺だけじゃない。スティングやステラだってそうだったろう?」 だから、自分たちは彼にしたがったのだ……とアウルは主張した。そして、他の二人もまたしっかりと頷いてみせる。 「今も昔も、君はいい上官だ……と言うことか」 バルトフェルドがこう告げれば、三人そろって首を縦に振った。その事実に、アスラン以外のものはどこか微笑ましいという表情を作っている。 「……キラに関しては、もっと複雑だ」 それにどう反応していいのかわからなかったのだろう。フラガは再び口を開く。 「どうやら……月にいた頃から目を付けられていたらしい」 この言葉に、それまでの柔らかな雰囲気が一変する。 「本来なら、そっちの坊主も連中のリストにはあがっていたらしい。だが、そっちの坊主の父親はプラントの有力者だった。月にいたころも、こっそりと護衛を付けられていたらしくて、手出しができなかったらしい」 それはキラにも同じ事が言えた。 「しかし、そっちの坊主はプラントに呼び戻された。そうなれば、護衛の連中に《キラ》を守る理由がなくなる。逆に言えば、ブルーコスモスにとっては好機だったと言うことだ」 そして、オーブの有力氏族の中にもブルーコスモス関係者はいたのだ。オーブという国のためなら民間人の一人や二人どうなってもいいと考えているものが。 そんな連中がヤマト一家をブルーコスモスに渡した。 そして、キラは全てを奪われ、《エデン》に閉じこめられたのだ。 「連中が一番欲しかったのが、全ての状況を的確に判断し、そして地球軍の機体をフォローするためのコンピューターだった。キラにこだわったのは、連中が考えていたシステムと一番相性がよかったから……と言っていたな」 それ以上に、キラがヘリオポリスから地球まで《アークエンジェル》を守って戦ったことが重要だったらしい。 連中の施した《枷》がキラの中でまだ生きていることが確認できたから。 新たな《材料》を探すよりもある程度信頼ができる《パーツ》を取り戻した方が楽だと考えたらしい。 「もっとも、キラが最後、ラクス嬢達に協力したのが気に入らない奴もいたらしくてな。そういう奴らを黙らせるためにも手元に取り戻したかった……とあいつが言ったんだ」 そして、自分はそのための《餌》だったのだ、とフラガは言い切る。 だが、それでもかまわないと思っていたのだ、と彼は付け加えた。 「キラが他の誰かのものになるのが、許せなかったからな」 その気持ちが、キラを連れ去らせたのだ……と言う彼の心情は理解できないわけではない。あるいは、自分が彼の立場であれば同じ事をしたかもしれない、とも思えるのだ。 それでも、無条件で認めるわけにはいかない。 「おいおい……黙ってろって」 フラガの言葉を聞いたことで感情が爆発しているのだろう。アスランが不満そうな声を上げている。しかし、それを聞いている場合ではないのだ、今は。だから、ハイネの判断は正しいと思う。 「確認させてもらっていいかな?」 デュランダルはこう言って口を開く。 「なんですか?」 何の気負いもなく、淡々とフラガは言葉を返してくる。そんな態度は、ある意味好ましいものだ、とデュランダルは心の中で呟く。 「そちらの三人が、普通に生活を送るためには《ゆりかご》という装置が必要だ、と言うことはわかったが、それはこの艦にあるのかね?」 それならば、後々簡単なのだが……と思う。 「あぁ……」 「データーは?」 この問いかけに、フラガは一瞬ためらうような表情を作る。 「キラの、頭の中に全部入っている。必要な薬剤の成分も含めて、な」 だからこそ、装置に故意にバグを作ることも可能だったのだ。フラガはこう告げた。 「なるほど……」 間違いなく、一番重要な存在はあの少年なのだ。 あの小さな体に、どれだけの重荷を背負わされているのだろうか……と彼は心の中で呟いた。 |