「……貴様らは……」
 ユウナの告白を耳にした瞬間、カガリは怒りを抑えきれなくなった。それでも、ここで自分が爆発してはいけない……と必死に抑える。
「そんな昔から、オーブをブルーコスモスに売っていたのか!」
 こいつの話が本当であれば、キラのあの状況は全てセイランのせいだ、と言うことになるのではないか。
 いや、それだけではない。
 自分たちが育ってきた環境すらも全て……
「……カガリ様……」
「カガリさん」
 トダカとマリューがそっと声をかけてくる。
「……大丈夫だ……」
 感情に流されて動くことはしない……とカガリは思う。そんなことをしてしまえば、あの二人を守ることはできないはずだ。
「それよりも今の話は……」
「全て記録してあります」
 証拠として、十分使える……と即座に言葉が返ってくる。それにカガリは小さく頷き返した。
「もうじき……キサカも戻ってくるはずだしな。セイランとブルーコスモスが無事ですむと思うな!」
 ヘリオポリスの一件も含めて……とカガリはユウナをにらみ付ける。
「だけど、カガリ!」
「うるさい! 人一人の存在も守れずに、国を守れるか!」
 人がいるからこそ、国が成り立つのだ。その逆ではない! とカガリはウズミから教えられてきた。
 まして、公にはできないとはいえ《キラ》の存在が自分にとってどれだけ大切なものか。
「そういう考えだからこそ、誰も貴様に従わなかったんだぞ!」
 兵士をただのコマとしか考えていない。
 いや、それ以前に、戦争をゲームとしてしか見ていないから……とカガリは言い切る。
「この場で戦っているものも、そして、散っていった者達にも、それぞれの人生があったんだ! そして、大切な人たちもな」
 だから、指揮官は少しでも被害が少なくなるように作戦を立てなければいけないのだ。そして、ただ一人の功名心のために、それを崩してはならない。
 それすらもわからない奴が戦場に出てくるな……とカガリは思う。
「もういい!」
 これ以上、こいつの顔を見ていたくない。そんなことになれば、自分が何をするかわからない、とカガリは判断をする。
「ユウナを営倉に放り込んでおけ!」
 決して逃がすな! とカガリは命じた。
「カガリ、ボクは!」
 もう既に、カガリの方にはユウナの言葉を聞くつもりはない。
 視線をそらして、そのことを言外に告げる。同時に、ブリッジにいた兵士が彼を引っ立てて行く。その中にザフトのものがいたのは仕方がないことだろう。
「グラディス艦長」
 カガリはタリアへと声をかける。
「こういう状況だ。申し訳ないが、議長へご報告をお願いしたい」
 責任はもちろん自分が取るつもりだ、とカガリは言い切った。
「もちろん、そうさせて頂きます。ただ、ご自分で議長の下へ行かれてはいかがです?」
 あちらの一件もあることだし……と彼女は微笑む。
「だが……」
「こちらのことは心配はいりません。私が責任を持って現状維持をさせて頂きます。権限は、こう言うときに使うべきでしょう?」
 今までは立場を優先させてきたが、情にしたがってもいいのではないか。彼女はそう言って微笑む。
 そう言えば、タリアはアスランの上官でもあったのだな、とカガリは心の中で呟いた。
「レイに送らせます。その場で、議長とも話し合われるとよろしいでしょう」
「ご厚意、感謝する」
 レイを付けることで監視を怠っていない……とアピールすることができるだろう。同時に、カガリが比較的自由に動けるように配慮をしてくれたと言うことだ。
 タリアに頭を下げると、カガリは今度こそキラに会うために歩き出した。

 フラガはそっとキラの体をシーツの上へと下ろす。そして、毛布を掛けてやった。
「……ステラ……」
 その髪を軽くなでると、信頼できると思う少女の名を口にする。
「何?」
 ふわりと嬉しそうな表情を浮かべると、彼女は近づいてきた。そんなステラに、フラガも柔らかな笑みを向ける。
「そっちの赤い目の坊主と一緒に、キラの側にいろ。疲れたなら、隣で寝ててもいいぞ」
 ガイアを自爆させるという荒技を使ったのだ。
 本来ならば真っ先に《ゆりかご》に入れなければならないのだが、現状では無理だろう。ならば、少しでも彼女の精神を安定させる状況に置いてやらなければいけない。そう判断して、フラガはこう告げる。
「シンも、一緒?」
「彼等の許可がもらえるならな」
 この場で重要視されるのは自分の言葉ではなく、デュランダル達の判断だ。それは当然のことだが……それでもと思う。
「シン。彼女とそちらの二人と一緒に、キラ君のそばに。彼が目覚めるまでは、誰も近寄らせないように」
 もっとも、そちらのお嬢さんは別だが……とデュランダルが告げたのは、フラガの言葉から何かを感じ取っていたからなのだろうか。
「了解しました」
 どこか嬉しげな表情で頷く少年は、きっと自分に素直なのだろう。その素直さが子供らしいと感じるのは、自分が年を取ったから、なのだろうか。それとも、それが許されなかった三年前の《キラ》を覚えているからなのか。フラガ自身にもわからない。
「ついでに、アスランはキラ君から一番遠い場所に」
 さりげなく彼がこう付け加えたのは、少しだけとはいえ、自分たちに好意を抱いていてくれるからだろうか。
 いや、キラにだけでいいのだ。
 それがあれば、彼の命だけは保証されるだろう。
 もっとも、自分に縛り付けられたキラの精神が、その事態を受け入れられるか……というとまた別問題ではないか。
 それはあの三人にも同じ事が言えるのだが。
「……他の者達は適当に座ってくれ。フラガ氏は申し訳ないが、ここにな」
 自分が使っていたいすにはデュランダルが当然のように腰を下ろしている。他の者達も思い思いの場所に座を占めたようだ。
 そんな中、バルトフェルドが自分の隣を指さす。
「別に、どこでもかまわないが」
 ただ、キラの顔を見ていられないのが寂しいかな。そんなことを考えていた。