「……わかりました……アスランを止めればいいわけですね」
 端末から響いた声に、シンは確認の言葉を返す。
『とりあえず、俺が行くまででいい。目標の居場所は確認したんだろう?』
 確かに、自分一人ではどこまであの男を止められるかわからない。だが、ハイネが来てくれるというのであれば大丈夫だろう。
「はい。それに関しては大丈夫です」
 そして、アスランに教えるつもりはないし……とシンは心の中で呟く。
『わかった。議長達もそちらに向かっているそうだ。あいつの命令は聞かなくていいからな』
 アスランに何か言われたら、そう命令されたと言っておけ! と言うと同時に、ハイネは通信を切った。おそらく、会話を交わしたままでは全力疾走ができない……と判断したからだろう。
「ったく……」
 何であいつが……と呟きながら、シンは端末をポーチにしまう。
「……誰が来るって?」
「キラ、どうなるの?」
「そいつ、邪魔もん?」
 次の瞬間、今まで息を詰めて新舘の会話に耳を傾けていた三人がこう問いかけてくる。
「くるのは、アスラン・ザラって奴。一応、俺の上官。でも、もう一人の上官が無視していいって言っているから、それは問題なし。そいつが《キラ》にむちゃくちゃ執着しているから、俺たちの制止を聞かずに中に足を踏み入れるかもしれねぇから、何があっても中に入れるなってさ」
 少なくとも、議長達が来るまでは……とシンは付け加えた。その時に、この三人の口からよく出てくる《ネオ》という人物も来るのではないか、とシンは思う。
「邪魔もんだけど、殺すわけにいかないから厄介なの」
 悔しいけど、自分よりも強いし……と呟く。だから、ハイネも『自分が行くまで』と言ったのだろう。
「……殺しちゃダメ……でも、中に入れてもダメ……でいいの?」
「そう言うことかな」
 ケガをさせるくらいなら、多分、処分を受けることはないのではないか。ステラ達がやったとしても、同じ事だ。シンはそう判断をする。
「……わかった」
 ケガまではいいの……とステラは呟く。その口調はあくまでも本気だ。
「どんなに強くても、四人がかりなら何とかなるか」
 こう言ったのはスティングだった。
「キラを守るためなら、何でもするさ」
 キラとネオだけが、自分たちにとって大切なのだ、とアウルも告げる。
「あの二人だけが、俺たちを《人間》として見てくれたんだ」
 だから、と言う言葉の裏にどれだけの思いが含まれているのだろう。シンにはわからない。それでも、と彼は口を開いた。
「そうやって、誰かを『好き』って言えるなら、十分だと思うけどな、俺は」
 誰かを好きになること。
 誰かを憎むこと。
 それは《機械》にはできないことだろう、とシンは口にする。
「お前……」
「……ステラがきにいるだけあって、変な奴だな」
 それは決してほめ言葉ではない。だが、彼等がそれで少しでも自分に親近感を抱いてくれたのならばいいか……とシンは心の中で呟いた。

「本当に……」
 どこにいるんだ……とアスランは呟く。
 途中で数名のザフト兵にあったが、まるで箝口令を敷かれているかのように誰も答えを与えてはくれない。
「……ようやく会えそうなのに……」
 それなのに、何故、自分はキラに会っていけないのか。
 いや、何故会うのを邪魔しようと言うのか。
 その答えがわからないからこそ、自分はいらついているのかもしれない。
 もっとも、理由を知らされたとしても、彼にあいたいと思う気持ちを抑えきれるか……というとかなり問題だが。
 自分にとって、唯一残された《大切》な存在。それが《キラ》なのだ。
 しかし、再会したときにはもう、彼は他人のものになっていて……それでも諦めきれなかったのだ。だから、どのようなことをしてもいいから、手に入れたかった。
 そして、そのチャンスが与えられたか……と思ったのに。その次の瞬間、自分の前から奪われてしまった。
 そのキラが、自分の手の届くところにいるのだ。
 どうして、一目見ることまで禁止されなければいけないのだ、とアスランは思う。
 別段、今のキラをどうこうしたいわけではない。
 あのころの《キラ》を覚えているからこそ、アスランはなおさらそう考えるのだ。
 意識を縛られていたキラは、自分を拒絶した。そうしなければ、彼の精神が崩壊するとわかっていなかった自分の行動が、どれだけ彼を傷つけたか……それを覚えているからこそ、無理強いはしない、と思っている。
 それでも、限界はくるのだ。
 だから、彼の姿を見たい。
 その髪に触れたい。
 このくらいは許されるのではないか。
 アスランはそう考えていた。
「……今、会いに行くから」
 キラ……とアスランは囁く。だから、せめて笑顔を向けて欲しい……と心の中で付け加えていた。