「……いい加減にしろよ」
 いつまで自分はここで待機をしていなければいけないのか。
 先ほど、デュランダル達が乗ったものらしいヘリがついたではないか。
 それなのに、まだ待機命令が解除されない。
「俺は、キラに会うためだけに……キラを取り戻すためにザフトに戻ったんだぞ!」
 なのに……とアスランはシートに拳をたたき込む。本来であれば、コンソールをたたきつけたいところだが、それで万が一の頃があってはいけないと考えるだけの理性は、辛うじてまだ残っていた。
『そんなことを言っても仕方がないだろう』
 あきれたようなハイネの声が耳に届く。
『どのような理由があろうと、俺たちは軍人なんだ。命令には逆らえないって』
 だから、勝手に行動をするなよ……と彼は付け加えた。
「うるさい!」
 そのくらいわかっている、とアスランは思う。それでも、自分の感情を抑えきれないのだ。
 キラさえ取り戻してしまえば、ザフトでの地位なんてどうでもいい。
 こう開き直ってしまえば、後は簡単だ。
『アスラン!』
 ハイネの言葉すら、今のアスランには届かない。コクピットを滑り降りると、そのまま艦内へと向かう。
『アスラン、お前なぁ!』
 あきれたようなハイネの声を共に、グフのマニピュレーターが目の前に降りてきた。しかし、その指の間をすり抜けると、そのまま前へと進んでいく。
『ったく……』
 その後に続けられた言葉は、アスランの耳には届かなかった。

 バルトフェルドの端末がけたたましい音を立てる。それにその場にいた誰もが表情をこわばらせた。
「俺だ」
 それでも、声だけは冷静にバルトフェルドが応答をする。
『申し訳ありません! アスランを抑え切れませんでした』
 ハイネの声が通信機越しにもはっきりとわかった。
『とりあえず、俺も追いかけてはいますが……追いつけるかどうか……』
 おそらく、何の抑制もなく全力疾走をしているのだろう、アスランは。
 何よりも、今の彼はまだ《FAITH》だ。キラ達の居場所を問いかければ答えないわけにはいかない。
「……フラガ様。よろしいのですか?」
 ラクスはまだ仮面をかぶったままの彼にこう問いかける。
「今のアスランは、誰の制止も聞き入れませんわよ。私は《キラ》を失いたくはありません」
 もちろん、他の者達もだ。そう言いきる彼女の言葉に、フラガは初めて口元をゆがませた。
「恐いお嬢ちゃんだな、相変わらず」
 どこまで情報を掴んでいるんだか……とそのままと息と共にはき出す。
「ほんのわずかだけです」
 何も知らないに等しい、とラクスは正直に口にする。
「……それでも、今、アスランとキラを会わせれば、私たちは永遠に彼を失ってしまう。そのことだけは理解しているつもりです」
 そうなのでしょう、と視線を向けた。
「あぁ……」
 苦いものを含んだ声で、フラガはラクスの言葉を肯定する。
「今のキラに、俺以外の人間が触れた場合……あいつの意識は、二度と戻らない」
 そうする以外、キラを奪われないようにする方法がなかったのだ。彼はさらにこう付け加える。
「と言うことは……アスランを止めるしかないわけだ」
 詳しい話は、その場でか……とバルトフェルドが行動を開始した。
「付き合ってもらおう」
 彼はフラガの腕を取ると、そのまま部屋から出て行く。その後を、ラクスやデュランダルも当然のように追いかけた。