「……で、何で、こいつ、いるの?」
 ともかく、寝ているキラの元にフラガ以外の人間を近づけてはいけない。そんな状況になれば、彼は二度と目が覚めないのだ。だから、と思ってきてみれば、信じられない光景を目の当たりにしてしまったぞ、とアウルは思う。
「まぁ、いいんじゃないのか」
 同じように駆けつけてきたスティングがこう言い返してくる。
「そいつがいれば、ザフトの連中を止めてくれるんじゃねぇ?」
 でなければ、俺がそいつを含めて殺すだけだけどな……と彼はさりげなく付け加えた。
「そうだよな。そいつが止められないなら、そいつごと殺してしまえばいいだけだよな」
 結論は簡単に出た、とアウルは頷く。
「……大丈夫」
 そんな二人の耳に、ステラののんびりとした声が届いた。どうやら、今は戦闘モードではないらしい。
「シン、キラとステラ、守ってくれるって」
 ふわふわとした微笑みと共にステラはシンの腕にすがりつくようにすり寄っていった。
「お前な……」
 その言葉を素直に信じるんじゃない、とアウルは思う。だが、そうしてしまうのが《ステラ》なんだろうなという気持ちもする。
「約束、したから」
 その時だ。シンが初めて口を開く。
「だから、ステラが望むなら、守ってやるよ」
 俺にできるんならな……とシンは深紅の双眸でアウル達をにらみ付けてきた。
「信じろって?」
「信じてもらうしかねぇよ」
 第一、裏切るつもりだったら、アウル達が来るのを待ってない! ともシンは告げる。その言葉に、アウルはそうだよなぁとのんびりと思う。
「……そう言うことにしておいてやるよ」
 シンの態度から、スティングも何かを感じ取ったのだろうか。そう言ってその場に座り込んだ。もっとも、完全に警戒を解いたわけではないのは、彼の指が銃から離れていないことからわかる。
「いつ、どうなるかわからないからな。体力は温存しておけ」
 スティングがアウルに告げてきた。
「わかってる」
 あるもまた、スティングの隣に腰を下ろす。
「あのね」
 そんな彼等に、ステラが声をかけてくる。
「さっき、バカがいたの……ネオの命令、無視した」
 だから、ステラ、そいつら処分したの……と口調とは似つかわしくない内容を彼女は口にした。
「ステラ?」
「……ここにいる人、綺麗なんだろう? だから、馬鹿なことを考えた連中がいたって事だよ」
 ステラに問いかけたはずが、言葉を返したのはシンの方だった。
「邪魔だから、そいつらはあそこの空き部屋に放り込んでおいたよ」
 いざとなれば、自分の邪魔をしたから処分したことにしておく……とシンは付け加える。
「お前……」
「変わった奴だな」
 だが、悪い奴じゃない。それがアウル達の感じたシンの印象だった。

「……悪い……キラとフラガを頼む」
 本当は自分も行きたい。だが、オーブ軍を見捨てることもできないのだ……とカガリは唇をかむ。
『わかっておりますわ。そちらには、ラミアス艦長とグラディス艦長が向かわれるそうです』
 だから、彼女たちに相談をして物事を勧めればいい……とラクスは微笑み返してくれた。
「すまん」
 キラが一番だ、と言うことは事実。
 しかし、オーブの代表である以上、義務を優先しなければいけないときもあるのだ。
 よりによってこんな時に……とも思うが、仕方がない。
『仕方がありません。それが国を担うものの義務ですもの』
 かつて、それに近い立場にいたからだろう。彼女の言葉はカガリには的確なアドバイスとして受け止めることができる。
『お二方のことはご心配なく。アスランはきちんと抑えさせて頂きますわ』
 どのような手段を使ってでも……という言葉にかすかな恐怖を感じたのはカガリの考えすぎだろうか。だが、逆に言えばその方がありがたい、とも言える。
「頼む。こちらの片が付き次第、私も行くから」
 キラの顔を見たい。
 そして、フラガを一発ぐらい殴ってやろう。
 その後は、二人を抱きしめて盛大に泣いてやる。
 カガリはそう決めていたのだ。
『貴方の分は、きちんと残しておきますわ』
 この言葉と共にラクスは通信を切る。
「……何をする気なんだ、ラクス……」
 最後の言葉が激しく不安をかき立ててくれた。だが、少なくとも《キラ》だけは無事だろう……と即座に判断を下す。それならばかまわないか、とも。
「それよりも、あちらだな」
 まずは、ユウナだ……と視線を戻す。
「オーブ軍に告ぐ! ユウナ・ロマを国家反逆罪で拘束しろ!」
 それと、ルージュの着艦許可を! カガリはオーブ旗艦に向かってこういった。
『カガリ様』
「トダカ一佐か!」
 きまじめそうな男の顔を思い出しながら、カガリは聞き返す。
『甲板の上にどうぞ。他の艦に降りられるよりは移動しやすいかと』
 判断が速い、とカガリは微笑む。あるいは、彼等にしてもユウナに何か含むものがあったのかもしれない……と思う。
「わかった」
 視線を向ければ、赤いザクと飛行艇が一機こちらに向かっているのが確認できた。あれは確かミネルバ所属だったはず……とカガリが思い出したときである。
『アスハ代表?』
「聞こえている。甲板に降りてくれ」
 そこで合流をしよう、と言うカガリに、即座に同意の声が戻ってきた。