「……ステラ……」
 目の前のドアの前に、求める少女の姿を発見してシンはふっと安堵の笑いを漏らす。
「無事だったんだ」
 あの状況であれば無事だっただろう、とはわかっていた。しかし、ケガをしないとは言い切れなかったのだ。
 しかし、目の前の少女は無傷のように思える。
「ダメ! ネオ以外、入っちゃダメなの!」
 彼女はそう言って、数名の兵士達がドアの中へ進もうとするのを阻んでいた。
「そうは言うがな……」
 だが、兵士達は納得しようとしない。
「ここに大佐のオタカラがあるんだろう?」
「どのみち、この戦闘は勝ち目がないんだ。なら、せめて、な」
 いったい連中は何を言っているのか。シンは一瞬、それを理解することができなかった。
「ダメ!」
 ステラに向かって兵士の一人が手を伸ばす。
 その次の瞬間だった。
「うわっ!」
 周囲に朱が飛び散る。
 いや、それだけではない。
 どうやら、ステラに触れようとした兵士のものらしい指が、シンの目の前に転がってきていた。
「何をする!」
「キラに危害を加えようとする人間は、許さない!」
 どんなことをしてもキラを守れとネオが言った! とステラはナイフをかまえなおしながら言い返す。
「お前! 上官相手に!!」
 どうやら、兵士達の一人はステラよりも階級が上らしい。こう言い返している。
 しかし、それもステラには意味がない言葉らしい。
「ステラ達に命令ができるのは、ネオだけ」
 それが自分たちだ、と彼女は笑う。その表情から、あの日のような春風のような雰囲気は感じられない。
 しかし、これもまたステラの一面なんだ、とシンにはわかった。
 だから、彼女はあの時『キラを守る』といえたのだろう。
 そして、自分は彼女を守る、と約束をしたのだ。
 シンがこんな事を考えていたときだ。
「貴様!」
 いい加減にしろ、といいながら兵士達が銃を抜く。いくら彼女が強くても、これではやられるのではないか。シンにはそう思えた。
 そのまま、反射的にシンは飛び出す。
「ステラ!」
 守ると約束したんだ。その思いのまま、シンは引き金を引いた。

 銃口がまっすぐにこちらに向けられている。そのまま引き金を引かれれば、自分たちはあっさりと霧散してしまうだろう。
「これまで、だな」
 他の艦にしても似たり寄ったりの状況なのではないか。
「大佐」
「無駄死にをすることはないだろう。少なくとも、下っ端はな」
 上の方は責任を取らなければいけないが……とフラガは苦笑を浮かべる。それでも、少なくとも彼等に関しては心配いらないだろうな……と心の中で付け加えた。
「投降信号を上げろ。ここまでだ」
 同時に、フラガは心の中でキラとあの三人について謝罪の言葉を呟く。
 こうなってしまった以上、あの三人はともかく《キラ》は連中に手渡すわけにはいかない。そんなことになれば、あの少年は自分の腕の中から取り上げられてしまうだろう。
「すまんな、キラ」
 だから、今度は一緒に逝くか……と呟きながら、フラガがさりげなく軍服の隠しからあるものを取り出そうとしたときだ。
『そこの指揮官。下手なことを考えるなよ? 歌姫に呪われるぞ』
 いきなりこちらに銃口を向けているMSのパイロットからこんなセリフが飛んでくる。
「大佐! まさか……」
「……責任は取るべきだ、と思ったんだがな」
 しかしばれるとは思わなかった……とフラガはため息をつく。
 もちろん、彼が言う《歌姫》が誰のことかもわかっていた。そして、彼女であればどのようなことをしてもおかしくないだろう……とも思う。
 ついでに、自分の性格もばれているだろう、と言うこともだ。
「大佐……お願いですから、自刎なとお考えにならないでください」
 艦長がこう言ってきた。
「今回のことは、大佐の責任ではないのです。それに、無駄死には避けろとおっしゃったばかりではありませんか」
 だから……と彼は主張してくる。
「……俺が死ねば、後々楽だと思うんだがな」
 責任を全て自分に押しつければいいだけだろうに……とフラガは呟く。死人に口なしなんだし、とも。
「我々は、あの男のような卑怯者にはなりたくありません」
「そうだな」
 死んで楽になる――あるいは、死んでキラを自分だけのものにする――というのは卑怯な選択か。
 彼の言葉に、そう考えてフラガは苦笑を深めた。
「……後は、あちらさんの寛大な処置を望むしかないのかもな」
 まぁ、キラに関しては心配はいらないだろう。
 そして、あの三人に関してもだ。
 後、自分がどうなるか。
 もう二度と、キラを悲しませる結果にだけはならないでいて欲しい。フラガは心の底からそう願っていた。