アークエンジェルの登場で、完全に戦局が混乱している。 「……そろそろ、詰めの作業に入りたいんだがね」 かまわないか? とバルトフェルドはカガリに問いかけた。 『わかっている! キラと……フラガを頼む……』 アスランに馬鹿なことをさせないでくれ……と彼女は即座に言い返してくる。 「やっぱり、考えている不安は同じか」 アスランがフラガを傷つけ、その結果キラを殺してしまうこと。 それをバルトフェルドだけではなくカガリ達も心配していると言うことか。 「わかっている! 任せておきたまえ」 キラを取り戻すのは自分たちの第一の目的だ。そのためには《フラガ》の存在も必要だ、と言うことを、バルトフェルドはよく知っている。 だからこそ、あの男とも取引をしたのだ、自分たちは。 「まぁ、艦の一つや二つぐらい、君達の命に比べれば安いものだがね」 いざとなれば、あの艦が自分たちの手に残っていればいいのだ。そう判断した歌姫の胆力には感心するしかない。そう考えると同時に、口元にうっすらと笑みが浮かんだ。 「本当に、楽しませてくれる子供達だよ」 いろいろな意味で……と呟く。 「ただ、俺一人の手には余るのでね」 責任を取って、さっさと戻ってきてもらおうじゃないか。 そう呟いて笑う表情は非常に楽しげなだった。 「……さて……ラミアス艦長と連絡を取れるかな?」 それと、ハイネあたりとも……と呟く。 この戦局の混乱ぶりでは、正しい情報がわからないだろう、と判断したのだ。 「せめて、味方の位置ぐらいはな」 ともかく、アスランの居場所だけでもできるだけ早く確認しよう。でなければ、万が一の時に止められないからな。バルトフェルドは心の中でこうはき出していた。 「バリアント照準!」 体になじんだシートの上でマリューは指示を出し続けている。 「撃て!」 その言葉と共に、アークエンジェルの砲門が地球軍のMSやMAを撃ち抜く。 「……艦長!」 彼女の耳に、ラクスの声が届いた。 「右手の方向に、目的の艦を発見したそうですわ」 この言葉に、マリューはぎゅっと手すりを握りしめる。 ようやく、ようやくだ。 あの日、自分たちが失った。そう思っていたものをようやく取り戻すことができる。そして、自分が巻き込んでしまった《彼》をようやく戦争から切り離してやることができるのではないか。 「わかりました」 はやる気持ちを抑えて、マリューはこれから自分達がなすべき行動を考える。 「カガリさんとバルトフェルド隊長の動きは?」 二人に必要であれば援護をしなければいけないだろう。 二人を取り戻すことは確かに湯煎しなければいけない事柄ではある。だからといって、そのために共にすごしてきた仲間を見捨てるわけにはいかないのだ。 「カガリさんは、オーブの方々が側についていらっしゃいます。バルトフェルド隊長は、目標に向けて移動中ですわ」 どれだけ不利な状況に置かれていても、彼女の声は、それを感じさせないのではないか。そう感じさせてくれる。 「では、我々はバルトフェルド隊長のサポートに回ります」 マリューがこう言ったと同時に、ブリッジのメンバーはそれぞれの動きを開始した。 その思いはただ一つだけだろう。 「二人を取り戻すわよ!」 この宣言に、誰もが同意を返してくれた。 「……ステラもいる以上、沈めるわけにはいかない……」 だが、敵艦の動きは止めなければいけない。 そのためにはどうすればいいのだろうか。 海底から船底を見上げながらシンは考える。 どうやら、連中はまだ自分の存在を見つけ出してはいないらし。それならば、いくらでも方法があるはずだ。 だが、何ができるだろう。 「……左腕は、ダメだな」 先ほどの衝撃で動かなくなっている。 だが、それを修理している暇はない。だからといって、他のシルエット・フライヤーを射出してもらえる状況でもないだろう。 それでも何とかするしかないのだ。 「……推進装置だけを破壊できれば……」 でなければ、舵でもいいかもしれない。そうすれば、あの船は動けなくなるだろう。 動けなくなれば、後は今のインパルスでも制圧が可能ではないか。 「……ステラ……」 そうすれば、彼女も助け出せるのではないか、と思う。そして、彼等が助けたいと思っている相手も、だ。 「大丈夫、俺が守るから」 君も、君が守りたいと思っている人たちも。そう呟きながら、シンは目的のものを探す。 「あれか」 見つけた、とシンは口元に笑みを浮かべる。 同時に、現在使える武装を確認した。 「……何とかなるな」 ならば、早速行動に移そう。 シンはそう判断をすると一息にインパルスを浮上させる。 後は、敵に気づかれる前に目標を破壊するだけだ。 シンは照準を慎重に合わせた。 「こいつ!」 何で沈まないんだ! とアウルは八つ当たりをするように叫ぶ。 「お前は邪魔なんだよ!」 そのまま、照準をロックしようとしたときだ。不意にモニターにある文字が表示される。 「……帰還命令?」 何でこんな時に……とアウルは眉を寄せた。それができる状況なのか、とも。 だが、その感情は次に現れた文字で吹き飛ぶ。 「……キラが?」 正確に言えば母艦が襲撃されているらしい。だが、この戦闘の前にキラが不安にならないように……とフラガが彼を眠らせていたことをアウルは覚えている。 他の者であれば、自力で逃げ出せるだろう。 しかし、意識がないキラは…… 「……ステラはどうしたんだよ」 こう呟くものの、自分にまで声がかかったというのであれば答えは一つしか考えられない。 「あいつ、死んでなきゃいいんだけどな」 自分たちの中の誰が死んでも、キラはきっと悲しむだろう。そんな彼をなだめる役なんてやりたくない、と考える。もちろん、スティングだって同じはずだ。 「ともかく、こいつ、何とかしないと……」 緑の連中や他の機体と違ってちょっと手強いよな……とアウルは眉をひそめる。 もっとも、海中での戦闘に特化されていない機体である以上、自分の方が有利であるはずなのだ。 それなのに、どうして自分は相手の動きを止めることができないのか。 「ったく、忌々しい!」 自分は連中よりも強くなるように操作されているはずなのに、とアウルは眉を寄せる。 ともかく、隙を見て何とかしなければいけないか。 「……あのバズーカーの弾倉が切れたときが、勝負か」 そうなれば、あちらの機体の武器はビームサーベルだけになる。だが、海中ではその威力はかなり落ちるのだ。 何よりも、持ち替える時に隙ができるはず。 「撃破できなくても仕方がないか」 帰還する方が優先だし……とアウルは自分に言い聞かせる。 その間にも、白い機体に向かって攻撃を加え続けていた。ついでに、相手の母艦と思える船にもミサイルの軌道が向くようにする。 「……さっさとあきらめろよ!」 アウルの言葉を耳にするものは、誰もいなかった。 |