いくら話し合っても、これに関しては平行線だろう。
 というよりも、オーブからプラントに移住する人間を止めなければ技術流出は止められない、とカガリもわかっているはずだ。
 しかし、今のオーブでは《コーディネイター》が安心して暮らすことができない。ウズミをはじめとした全首脳陣が生きていた頃は、完全に中立を保っていた。
 しかし、セイランをはじめとした今の首脳陣はどちらかと言えば地球連合寄りだ。だから、と言うわけではないのだろうが、コーディネイターにとっては暮らしにくくなっていることも事実だ。
 そして、プラントに移住したものにしてみれば、暮らしていくために仕事をしないわけにはいかない。
 その結果、軍事関連の仕事に就いたとしても誰もとがめることはできないだろう……というのは事実だ。
「……だが、強すぎる力は、また戦いを呼ぶ!」
 そのために、キラは自分たちの手の中から奪われたのだ。
 カガリの本音が、アスランにだけは聞こえた。
「いいえ、姫……争いがなくならぬから、力が必要なのです」
 しかし、デュランダルはこう言い返してくる。
「力があるからこそ、守ることが可能なのですよ。もっとも……姫のおっしゃるとおり、そのような力など、ない方が良いのでしょうが」
 難しい問題だ、と彼は付け加えた。
「彼のことも……そうなのではありませんか?」
 周囲をはばかるかのように、デュランダルはこう囁いてくる。それが誰のことを指し示しているのか、二人にはすぐわかった。
「デュランダル議長……」
「……私も、彼のことは気になっていたのでね……調べさせてはいるのだが……」
 残念だが、いまだに情報はないのだ……と彼は呟く。
「そう、ですか」
 ザフトであればあるいは……と考えていたのはアスランも同じだ。しかし、それでも情報が入手できないと言うことは、キラはきっと厄介な場所にいると言うことなのではないか。
 こうなれば、残る可能性はジャンク屋ギルドからの情報だけかも知れない。
 アスランがそう考えた、まさにその瞬間だ。
 彼等の耳に不意に非常警報が届く。
「……なんだ?」
 そう言いながら、アスランは周囲を確認する。
 彼の視界に、ハンガーの一つからビームが発射されたのが見えた。そして、その後に現れたのは三機のMSだった。
「……なんだあれは……新型?」
 それだけならばいい。その程度であれば、オーブも地球軍も行っている。限られた数しか所有することを許されないのであれば、より強い機体を手にしたいというのは当然の欲求なのであろうから。
 だが、問題はそのシルエットだ。
「ガンダム?」
 あの戦いのおり、自分たちが乗り込んだ機体。
 それらによく似たシルエットを持っている。
「姫をシェルターへ!」
 デュランダルがこう叫ぶ。
「ミネルバにも救援を要請しろ!」
 彼は、現場で指揮を執るつもりらしい。それは当然の判断だろう。
「カガリ……」
 同時に、何かが始まるのか……という絶望にもよく似た予感が、アスランにはあった。

 自分たちを案内してくれていた相手が、目の前で瓦礫につぶされた。
 このままでは、シェルターにたどり着くことも難しいだろう。
 では、どうするべきか……そう考えながら周囲を見回したアスランは、目の前に放置されているザクを見つける。
「こっちだ!」
 カガリの腕を引っ張ると、アスランはそれへと駆け寄っていく。
「なんで……何でこんな事に……」
 アスランの腕の中で、カガリは呆然と呟いている。その気持ちはアスランも同じだ。立場が違っているとはいえ、あの時の自分たちの行動そのままではないか。そう思う。
 だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「乗るんだ!」
 そして、そのまま彼女をコクピットに押し込んだ。
「アスラン!」
「こんなところで君を死なせるわけにいくか!」
 カガリの非難をアスランはこの一言で封じる。
 ザクはジンをベースに開発された機体だ。自分でも十分操縦が可能だろう。そして、これであれば万が一の時にも大丈夫であるはずだ。
 そんなことを考えながらアスランは素早く機体を起動する。
 しかし、そんな行動を取れば相手に気づかれてしまうこともまた事実だ。
「ちっ!」
 奪取されたうちの一機がこちらへ向かってくる。
 もちろん、それは予想の範囲内だ。ただ、相手の性能がわからない以上、対処の取りようがないと言うことも事実。そして、一機だけならばいいのだが、他の二機もこちらに攻撃を加えられては困る、とアスランは冷静に判断をした。
 これがフリーダムやジャスティスクラスの機体であれば、話は別だが。しかし、二機とも自分の手元にはない。ならば、少しでも危険を避ける方法を考えなければいけないだろう。
「……何?」
 目の前の機体の攻撃パターンに、アスランは何か引っかかるものを覚える。
「……どうかしたのか?」
「気のせいだ、と思う」
 カガリの問いかけに、それだけを返した。それ以上の会話を交わす余裕がなかった、というのが正しいのかもしれない。
 だが、刃を交えているうちにその引っかかりがなんであるのかアスランにもわかった。
 問題なのは、どうしてそうなのか……と言うことだ。
 目の前の機体のパイロットは、はっきり言って経験がないだろう、と思う。
 だから、目の前の機体のパイロットが《キラ》であるはずがない。しかし、動きの端々にキラの癖が感じられるのだ。
 それはどうしてなのか。
 確認したいが、他の二機までこちらに向かってきている現状では不可能だ。
 その事実が悔しい、とアスランは思う。
 自分にもっと力があれば、何とかなったかもしれないのに……と唇をかむ。
 その時だ。
 新しい機体が目の前に現れる。
「また戦争がしたいのか、あんた達は!」
 この言葉が、アスランの心に深く刻みつけられた。