「……シン!」
 さすがに、その光景にアスランは驚きを隠せなかった。
 同時に、それが彼の中の痛い記憶を刺激してくれる。
 自分がある意味《キラ》を失って取り戻す原因になった行動。それと同じ行動をガイアのパイロットが取ったのは偶然なのだろうか。それとも、何か意図が会ってのことなのか。
 ただの偶然だろう、とアスランは判断をする。
 でなければ、あんな行動は普通取らないはずだ。
「シンも……TP装甲が展開されたままだから、おそらく無事だろう……」
 あの時のストライクのようにPS装甲が落ちているわけじゃない、とアスランは自分に言い聞かせるように呟く。
 そして、すぐに意識を切り替えた。
 だが、その一瞬の思考がカオスのパイロットにつけいる隙を与えてしまったらしい。
「ちぃっ!」
 機体に衝撃を受けて、アスランは忌々しげに舌打ちをする。だが、手の方は無意識のうちに機体を立て直すために動いていた。
「お礼はしないとな」
 シンは今ひとつ可愛くないが、それでも自分の部下だ。そんな彼を心配する時間を邪魔してくれたことに対する……とアスランは呟く。
「ナチュラルにしては確かに優れた動きをしているが……所詮、ナチュラルなんだよ、お前は」
 自分たちにかなうはずがない! とアスランは叫ぶ。
 そして、そのまま遠慮なくカオスへと攻撃を加え始めた。
 経験の差だろう――それとも別の理由からか――相手を追いつめることは簡単だった。
 このまま、相手を討ち取れるか。
 アスランがそう考えた瞬間だ。
「何?」
 今までとは別の方向から衝撃が襲ってくる。
 いったい何があったのだろうか……とモニターを確認すれば、地球軍の艦から狙撃されたらしい。
 だが、普通のナチュラルに自軍の機体だけを避けてセイバーだけに架線を集中させることが可能だろうか。
「……まさか……」
 だが、あの陣営に一人だけ《コーディネイター》がいると推測されている。
 そして、彼であればそのような微妙なコントロールも可能ではないか……と思えるのだ。
「だが、何故」
 お前が、とアスランは口の中だけで呟く。
 同時に彼がそんな行動を取る理由は一つしかない、と言うこともアスランにはわかっていた。
「それほど……こいつらが大切か」
 セイバーの動きでキラには《自分だ》とわかるはずなのに。それとも、自分よりも彼等を優先するほど、意識を縛られていると言うことなのか。
「……どちらにしても、下手に撃墜できないって事か」
 厄介だな……とアスランはため息をつく。
「それでも……」
 俺はキラを取り戻したいんだ……と小さな声で呟いた。

「……キラ……」
 同じ光景を目にして、フラガは呆然としていた。
 まさか《キラ》がシステムに介入し、迎撃システムを乗っ取るとは思わなかったのだ。そして、その理由がスティングを助けることだったとは、完全に予想の範囲外だった。
 少なくとも、今のキラにスティングを個別認識できるとは考えられない。
 あの《システム》にはそのような機能はついていないはずなのだ。
「意識が、戻ったのか……」
 それとも別の要因なのだろうか。
 どちらにしても、キラをシステムから切り離さなければいけない、とは思う。
 だが、現実問題として、自分がここから離れることは不可能だ。
「ルーシェ少尉を保護!」
 どうしますか? とそんなフラガの耳に届く。
「無事か? なら《システム》の警護に就くよう、命じてくれ」
 その中に《キラ》がいることを彼女は知っている。だから、それだけで十分だろう、とフラガは判断をした。
「アビスは?」
 アウルはどうなっているだろうか。そう思ってフラガは問いかける。
「現在、ザクと交戦中です!」
 即座に言葉が返ってきた。と言うことは、まだ無事だ、と言うことだろう。
「不本意だが……撤退のタイミングを考えなければいけないだろうな」
 誰かに言うというわけではないが、フラガはこう呟く。
「オーブのお坊ちゃんがもう少し使えると思っていたんだけどな」
 というよりも、もう少し兵士達に人望があるか、と思っていたのだ。少しでもそれがあれば、カガリの登場でオーブ軍が戦意を喪失すると言うことはなかったはずだ。
「……オーブの裏切り行為……と認識してよろしいでしょうしな」
 でなければ、こんな状況に陥ることはなかったはずだ、と艦長も頷いてみせる。
「それに関しては、後でそれなりの処分を求めなければいけないでしょうが……」
「その前に生き残ることの方が重要だな」
 現状では、どうなることか。フラガはそう思う。
「そう言えば、ザフトの新型は? ガイアの自爆に巻き込まれたなら、撃破されないまでもそれなりの損傷は受けたと思うが……」
 あれに今出てこられては厄介だとしか言いようがないだろう。
「……現在、機体そのものをロストしています……」
 どうやら、見失っているらしい。その事実にフラガは眉を寄せる。
「早急に探せ! それと……おそらくアークエンジェルも出てくるぞ!」
 そちらもに注意をしろ、とフラガが口にした瞬間だ。
「ミサイル接近! 角度から判断して、ザフトからのものではありません!」
 噂をすれば影か……とフラガは小さく舌打ちをする。
「策敵、急げ!」
 敵の特定をしろ、と艦長が叫ぶ。
「その必要はない。間違いなく、アークエンジェルだ」
 いずれ出会うとはわかっていたは……よりによってこの瞬間かよ。フラガは心の中でこうはき出していた。