戦いの中に割って入ってきた機体に、誰もが驚きを隠せない。
「ストライク・ルージュ……いったい、何をする気だ、カガリ!」
 もちろん、アスランもその中の一人だった。
『私は、オーブ代表首長、カガリ・ユラ・アスハだ!』
 りんとした声が周囲に響き渡る。
『オーブ軍、直ちに攻撃をやめろ!』
 その言葉に、オーブのMS隊が一瞬動きを止めた。
「何を考えているんだ……と怒鳴りたいところだがな」
 だが、現状は利用できる。このまま、オーブ軍を撃破して地球軍の艦隊にたどり着ければ……とアスランが心の中で呟いたときだ。
『馬鹿なことは考えるなよ、アスラン・ザラ』
 突然通信がつなげられた。そう認識したときにはもう、この言葉がアスランの耳に届く。
「……バルトフェルド隊長……」
 一体どこに……と思って周囲を確認する。そうすれば、ルージュを守るようにしている一機のムラサメが確認できた。
『わかっているな?』
 だが、次にアスランの耳に届いたのは意味ありげな問いかけだ。
「余計なお世話です!」
 硬派言い返しながらも、アスランは必死に脳裏でバルトフェルドの言葉の意味を探す。
『あれは、カガリじゃない! 偽物だ!』
 焦ったような声がオーブ艦から響く。
 それでも、オーブのMS部隊は動こうとはしない。
 いや、彼等としては動けないのだろう。
 目の前にいる機体がルージュである以上、上が偽物だ、と言ってもそれを鵜呑みにできるはずはないのだ。
 何よりも、彼女が結婚式の会場から何者かに《拉致》されたことを彼等が一番よく知っている。そして、彼女が今オーブにいないこともだ。
『何をしている! あの偽物をさっさと打ち落とせ!』
 なおもオーブの司令官は命令を繰り返している。
「カガリは……バルトフェルド隊長が守ってくださるはずだな」
 それに、どうやらデュランダルからもそのような指示がでているらしい。ルージュに対してザフトからの攻撃はない。
「なら、俺は……」
 地球軍の旗艦を探すか……とアスランは呟く。
「シン!」
 だが、それは一人では辛い。そう判断をしてアスランは部下に声をかけた。
『何なんですか、あれ』
「さぁな。だが、おかげでオーブは動きを止めている。今なら、邪魔者はないと思うが?」
 だからついてこい、と言外に付け加える。
『わかりました』
 憮然とした口調でシンはこう言い返してきた。

「まさか、こういう隠し球があったとはな」
 これは予想外の展開だったな……とフラガは呟く。
「大佐?」
 どうしますか? と艦長が問いかけてくる。
「どうするもないんじゃない? ザフトを撃破するのが俺たちの仕事だろう?」
 だから、戦闘を続けるしかないのだ……と彼は付け加えた。
「その最中に、オーブ軍に被害が出たとしても……仕方がないだろうな」
 言外に、オーブ軍を巻き添えにしてもかまわない……とフラガは告げる。
「大佐?」
「そうでもしないと、あのおぼちゃんの目は覚めないんじゃないのか?」
 自分たちが何をしなければいけないのか……とはき出すように口にした。そう言えば、彼は納得したように頷く。
「確かにその通りですな」
 では、そのように指示を出します……と艦長は告げる。
「あぁ……一応オーブの旗艦は照準からはずせよ?」
 小さな笑いと共にこう言えば、
「わかっています。命令を出す人間は残しておかなければいけませんからな」
 即座にこう言い返してきた。その判断の速さが心地よいと思う。
 そのまま彼が指示を出そうとしたときだ。
「ザフトのMSが二機、こちらに接近しています!」
 CICのオペレーターがこう叫ぶ。
「カオスとウィンダムを迎撃に向かわせろ!」
 もし、自分が考えている通りならば、連中の狙いはただ一つだ。
「了解しました!」
 フラガの言葉に、ブリッジ内が慌ただしくなる。
「各艦、自分の判断で迎撃をしろ! アビスには海中からザフト艦をねらわせろ!」
 それを気にすることなく、フラガは次々と指示を出す。
 モニターに映し出され各機体の位置が、命じられたとおりの動きを見せている。それを示す点がザフトのそれを重なった。
「砲門開け! 目標、ザフト艦隊!!」
 艦長もまた、自分の判断で指示を出している。
 この緊迫した空気が、間違いなく戦場にいると教えてくれた。
「……これで、状況を立て直せればいいんだが……」
 そうであれば、何とか勝利をもぎ取れるかもしれない。フラガはそう判断をする。
 今回の戦いで失うのは自分の命だけではないのだ。
 自分の命よりも大切な存在を相手に奪われるかもしれない。それがわかっているからこそ、どのような手段を使っても負けるわけにはいかないのだ、とフラガは心の中で呟く。
「ステラ……敵が近づいてきている。かまわないな?」
 通信機のスイッチを入れると同時に、こう問いかける。
『うん』
 キラを守るの……と彼女は言い返す。
「いいこだ、ステラ」
 フラガの言葉にステラが小さな笑いを浮かべたのがわかった。そんな彼女に、フラガもまた笑い返す。
 その背後で『後は、あの艦がいつ出てくるかだな。それが、この戦局を大きく左右するだろう』とフラガはそれを考えていた。