先に口火を切ったのはザフトでもなければ地球軍でもなかった。 「ったく……ちょーっと釘の差し方が甘かったかな」 オーブの旗艦をにらみ付けながら、フラガはこう呟く。 「そうですね……現状では、まだ、完全に配置が完了していませんでした」 このままではこちらが不利な状況に追いやられるかもしれない。 「さて、どうするか」 オーブの連中に責任を取ってもらおうか……とフラガが口にした瞬間だ。シートに着けられたパーソナルモニターが反応をする。 「大佐?」 いったい何事か、と艦長が問いかけてきた。 そう言えば、ガーティ・ルー以外で《キラ》が戦闘中に連絡を送って寄越したのは初めてだったか、とフラガは心の中で呟く。それが厄介ごとにならなければいいのだが……と思いながらも、彼は口を開いた。 「御託宣、だよ」 「これが、でありますか」 フラガの言葉に、彼は即座に頷き返してくる。 「噂には聞いておりましたが……」 実際に目にするのは初めてだ……と彼は呟く。 「システムに負荷をかけすぎるからな。多用できないんだよ、これは」 今回だって、上からの圧力と、あの地に《プラント最高評議会議長》がいるという確証がなければ、誰が大切な子供にあんな事を強要するか、と心の中で吐き捨てる。 「しかも、そのシステムは現在、この艦に積まれてあるものだけだ」 だからこそ、自分たちの母艦として、この艦が選ばれたのだ。 いや、そのために建造された……と言った方が正しいのかもしれない。 システムと《ゆりかご》。 その二つを稼働させるために必要なエネルギーは、普通の艦ではまかなえないものでもあるのだ。 「そうですか。惜しいですね」 地球軍の軍人としては、それが正しい反応なのだろう。 しかし、それが腹立たしいと感じてしまうのは、自分が真実を知っているからか。それとも、それを知っていても何もできない自分をわかっているからかもしれない。 「まぁ、この戦いに勝ってしまえば、そんなもの、必要なくなるさ」 デュランダルさえ倒してしまえば、プラントも混乱するに決まっている。その間に、宇宙にいる部隊がプラントを制圧してしまえば、全ては終わるはずだ。少なくとも、上はそう考えているらしい。 「……そうなったら、俺たちはお役ご免か」 飼い殺しされるだけならばいい。処分される可能性だってあるだろう。 まぁ、それもキラと一緒であるならかまわないか……とフラガは自嘲の笑みを浮かべる。 「大佐?」 「と言うわけで、御託宣どおりに、オーブの皆さんに責任を取ってもらう事にするか」 連絡を頼む、とフラガは艦長に告げた。 「了解しました。責任は取って頂きませんとね」 その言葉に、彼も侮蔑の笑みを浮かべながらこう言い返してくる。 「適当におだててやれ。あのお坊ちゃんはそれだけで満足してくれるはずだ」 フラガのセリフに、彼は意味ありげな笑みと共に頷いて見せた。 「……オーブ軍が……」 モニターに映し出された光景に、カガリは衝撃を隠せない。 「お前さんがいないことをいいことに、地球連合に食い込もうって腹だろうな」 そんな彼女に向かってバルトフェルドが言葉を投げかけてくる。 「で? どうする?」 黙ってみているか、それとも出て行くか。 彼の言葉にカガリは考え込む。 「私が出て行けば……オーブ軍は耳を貸してくれるだろうか」 それとも、排除しようとするか。 「……軍人は耳を貸すだろうね」 その問いかけに対し、バルトフェルドはこう答えを返してくる。 「ただ、指揮官はどうだろうな」 いったい誰が来ているのかはわからないが、首脳陣であれば、これ幸いとカガリを殺そうとするかもしれない。バルトフェルドは苦虫をかみつぶしたような表情でこう告げた。 「そうだな」 その可能性は十分にある。 この場で自分が死んだとしても、誰か身代わりを立てればいいと考えているはずだ。 そして、連中の手の中に《キラ》の存在がある可能性は否定できない。 「……だからといって、見過ごすわけにはいかないんだ」 一人でもいい。 自分に耳を貸してくれるものがいるのであれば、それにかけてみたい。 カガリはそう思う。 「危険だぞ?」 冷静な口調でバルトフェルドが指摘をしてきた。 「わかっている」 それでも、とカガリは思う。 「私の義務だ」 こう言い返せば、彼は苦笑を返してきた。 「本当に」 君はキラによく似ているよ……と彼は付け加える。 「無茶なことを平然としようとするところがね」 もっともそういう考えの持ち主だからこそ、周囲の者も味方をしようと考えたのだろう。そして、あのような奇跡を起こすことができたのだ。 「無茶なのはわかっている」 それでも、とカガリはブリッジ内にいる者達を見回した。 「だからこそ、皆に力を貸して欲しい」 カガリはきっぱりと言い切る。 「お姫様の希望だ。できるだけご期待に添うようにしよう」 「そうね……それが、キラ君達の行方とつながるかもしれないわ」 彼女たちのこの言葉が、カガリに対する答えだった。 |