「……どうして……」
 配置を聞いたステラが、即座に不満を漏らす。
「仕方ないだろう。ガイアは飛ぶことも泳ぐこともできないんだから」
 だから、居残り……とアウルがからかうように口にする。
 確かにそれも理由の一つだ。だが、それ以上に重要な理由がある。
「ステラには、俺やキラを守ってもらわなきゃないからな」
 だから、居残りだ……とフラガは笑う。
「ステラが、ネオとキラを守るの?」
 予想どおり、と言うべきだろうか。ステラは即座にこう聞き返してくる。
「そうだ。アウル達は敵をたたく。ステラは、艦の上にいて俺とキラを守る。どちらも大切な役目だ」
 違うか? と言えば、ステラは即座に首を縦に振って見せた。
「ステラが守るの」
 ふわりと彼女は微笑む。それは透明で純粋なものだ。キラのそれとは違うが、見ていて心が和む、というのは否定しない。
 しかし、その笑みが不意に曇る。
「……ステラは、誰が守ってくれるの?」
 そして、こう呟く。
 あの時の記憶は消されたはずなのに、何故……と思う。同時に、キラが作った《バグ》がうまい具合に働いているのか……とも思う。
 しかし、今それで彼女の動きに支障が出ては困る。
「大丈夫だ、ステラ。本当にステラが危なくなったら、俺が助けに行ってやるよ」
 それでは不満か? とフラガは彼女に問いかけた。彼女が本当に望んでいるのが自分の手ではないとわかっているのに、だ。
「本当?」
 だが、ステラはとりあえずそれだけで納得したらしい。ふわりと微笑むとこう問いかけてくる。
「本当だ」
 ステラが危険に陥ると言うことは、この艦がまずい状況になった時だけだろう。だから、自分が出撃をしてもかまわないはずだ。だから、しっかりと頷いてみせる。
「なら、ステラ、がんばる」
 だから、約束……と彼女は小指を差し出してきた。
「キラのせいで、変な習慣が身に付いたな」
 指切りなんて、最初は知らなかったはずなのに……と思いながら、フラガはそれに小指を絡めてやる。
「指切りげんまん、嘘ついたらはりせんぼんの〜ます」
 戦場にはある意味似つかわしくない声が周囲に響いた。
「……本当にガキ、だな」
 あきれたようなアウルの声が耳に届く。
 それにステラがむっとしたような表情を作る。そのまま爆発するか、とフラガが心配したときだ。
「何、言っているんだか……相手がキラなら、お前だって無条件で小指出すくせにさ」
 どっちもどっちだ……とスティングが彼に向かって告げる。
「仕方がないだろう。キラは特別だって」
 彼が相手なら、どんなことでもするさ……と言う言葉に、フラガは苦笑を浮かべるしかない。
「そうだな……一番がんばった奴に、キラに添い寝をさせてやろうか」
 夜になったら返してもらうがな……と冗談半分で口にすれば、ステラとアウルがいきなり目を輝かせた。
「わかった」
「がんばるから」
 それでいいのか……とフラガはため息をつく。
「墓穴、掘ったな」
 スティングのこの言葉が非常に耳にいたかった。

「地球軍の旗艦は、沈めるな?」
 何でそんなことを……とシンはアスランをにらみ付ける。
「おそらく、そこに《目標》がいる、と推測されるからだ」
 あっさりと言い返されて、シンは二の句を告げない。
「今回の戦闘に地球軍は主力を差し向けてくる、と考えられる。その中には、アーモリー・ワンで奪取された三機も含まれているだろう」
 そして、それを指揮している艦に《彼》がいるはずだ……と言うのだ。
 その推測は正しいのだろう。
 だが……とも思う果たして戦闘中にそんなことを考えている余裕があるのだろうか。そうも思うのだ。
「できない……というのなら、ここに残って議長達の護衛に回ってくれてもいいぞ」
 さらりと付け加えられたその言葉が、シンのプライドを刺激してくれる。
「誰ができないなんて言った!」
 そんなことは言っていない、とシンは怒鳴り返す。
「なら、文句は言うな。命令に素直に従うのも軍人のつとめだぞ」
 それができてからなら、多少の事は見逃してもらえることになるがな……と意味ありげなセリフを彼は口にする。
「あんた、何を言いたいわけ?」
「……わからなければいい」
 シンの追及をアスランはあっさりとかわした。
「インパルスとセイバーが中心になって敵艦隊を撃破する。レイとルナマリアはミネルバの護衛だ」
 もっとも、と彼は再び作戦指示を始める。
「チャンスがあるのであれば、敵艦を撃破してくれてもかまわないが」
 あるいは潜水艦を……と言われた言葉に、シンだけではなく他の二人も驚きの表情を作った。
「アスラン?」
「簡単なことだ。飛び移ればいい。でなければ、かなり機動性を犠牲にすることになるが海中に飛び込むか、だ。その時はビームライフルではなくバズーカーを使え」
 そうすれば、確実に相手に尊称を与えられる……とアスランは指示を出す。
「前の戦争での経験か?」
 不意に背後からこんな声が響いてくる。
「……ハイネ……」
 そこには、デュランダル付きの《FAITH》ハイネ・ヴェステンフルスが立っていた。しかし、一つの隊に二人の《FAITH》というのは何故なのか。
「お前らと付き合えと、さ」
 にやりと笑ってみせる相手に、アスランは不審そうな眼差しを向けた。それは他の三人も同じ事だ。
「じゃじゃ馬を制御するには、人員が多い方がいいだろうという議長の判断だ」
 それが自分のことを刺しているような気がしたのは、シンの考えすぎだろうか。
「命令なら、仕方がない」
 アスランの言葉に、どこか忌々しそうな響きが含まれていたことだけは事実だった。