目の前に広がる光景に、カガリだけではなくアスランも息をのむ。 戦争が終わってから建造されたはずの、このアーモリー・ワンが戦渦の爪痕を残していないのは事実だ。しかし、これほどまでに活気に満ちあふれているとは思わなかった。 それはきっと、プラントが新しい世界に向かって歩き出しているからかもしれない……とアスランは思い直す。 人々の視線は未来に向けられている。 だからこそ、これほどまでに活気に満ちあふれているのだろう。 「……服はそれでいいのか? ドレスは一応、持ってきているよな?」 この中で、カガリのこの姿は逆に目立ってしまうのではないか。それに、時にはそのようなことも必要なのだ。 「なんだっていい! いいだろう、このままで」 「必要なんだよ、演出みたいな事も。わかっているだろう? 今回は非公式とはいえ、君も今は、オーブの代表なんだ」 くだらないとはわかっていても、相手になめられないためにはそんな茶番も必要なのだ……とアスランは口にする。 ザラの息子であった自分ももちろん、以前はそのような立場にあった。 だが、一番それを利用していたのは《ラクス》だろう。彼女のその行動が、少なくとも今目の前にある平和を生み出したのは事実だ。 そして、もう一人。 キラの存在があったからこそ、目の前の平和は生み出されたのだ。 だが、そのキラは今はいない。 そして、世界はまた、戦争への道を歩もうとしているのではないか。 このにぎわいも、確か、ザフトの新造艦の進水式のためだったはず。この時期に、この場でカガリと最高評議会議長の非公式の会見が行われることになったのは、このにぎわいが自分たちの存在をごまかしてくれると考えたからだろう。 「……そんな日に、このような場所でとは……恐れ入る」 もっとも、カガリにはそれも気に入らないらしい。 彼女にしてみれば、戦争につながる全てが気に入らないのだろう。 そのような動きをするものがいるからこそ、キラが連れ去られたのだ。それがなければ、キラは今までも自分たちの側にいてくれただろう――その隣には、フラガの存在があったかもしれないが――そう考えているのだ、カガリは。 しかし、この場で不用意な言葉を口にされては困る。 そんなことになれば、相手の心証を悪くしてしまうだろう。 「内々、かつ緊急に……と会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ代表」 だから、彼女を少しでも説得しておかなければいけない。そう考えて、アスランは口を開く。 「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろう――というデュランダル議長のご配慮もあってのことと思われますが?」 ここだからこそ、セイランをはじめとした者達もさほど抵抗を見せなかったのではないか。 それに、何かあったときでも対処が取りやすい。 「……わかっている……」 悔しげにカガリはこう言い返してきた。 結局、自分はただのお飾りでしかないのだ。それを彼女も気づいているのだろう。それでも、これから実権を握ることも可能であるはずだ。 そのための手伝いをすることが、いずれキラを取り戻すことにつながるのではないか。アスランはそう信じていた。 周囲のざわめきが、ステラには珍しいものに感じられる。 しかし、それは同時に、自分とは関係ないものだ……とも思える。 この場にいる者達は、自分達とは《別》の生き物なのだから、と。 それでも、ショーウィンドウに移っている自分の姿は、彼等と変わらない。 『似合っているね』 ステラの脳裏に、キラの言葉がよみがえる。 「似合う?」 本当にそうなのだろうか。そう思いながら、ステラはくるりとその場で一回転してみた。ふわりとスカートの裾が翻る。その動きが、ステラには素敵なものに思えた。 キラの前でやってみせれば、またほめてもらえるだろうか。 彼のことだ。きっとほめてくれるだろう。 そんなことを考えながら、スカートを翻していたときだ。 「あっ……」 「うわっ!」 何かにぶつかった、と思った次の瞬間、聞き覚えのない声が耳に届く。 それだけではない。 バランスを崩しかけた自分を支えてくれようとしていたのか。相手の手が自分の胸に添えられている。これがもう少し位置がずれていれば気にならなかったかもしれない。 『ステラ……ネオさん相手でも、胸を触られたら怒っていいんだからね』 確か、キラはそう言っていたはず。 『女の子の胸は、簡単に触らせていいものじゃないんだよ。ステラがいつか出会うかもしれない大切な人とお医者様だけだよ、触らせていいのは』 そうでないときには、相手がフラガであろうとも怒っていいのだ、とキラは微笑みながら口にしていた。その隣でフラガが苦笑を浮かべつつ頷いていた、と言うことは、キラの言葉が正しいのだろう、と思う。 と言うことはこう言うときは怒るべきなのだ。 だからといって、ナイフで斬りつけるわけにもいかない。 ここでそんなことをすれば、作戦が失敗してしまう。それはすなわち、キラの顔を二度と見られないと言うことだから、だ。 仕方がなく、相手の顔をにらみ付けるだけで我慢しておく。 そのまま相手の手を振り払うと、ステラは駆けだした。 背後であの男とその連れが何かを話しているのが聞こえる。 しかし、それにはもう興味を感じなかった。 「……何してたんだよ」 合流した瞬間、アウルがあきれたようにこう言ってくる。 「……知らない……」 どうしてそうなったのか、と言われても困る……とステラは彼に向かって言外に告げた。 「まぁ、いいだろう。それよりも、移動するぞ」 そろそろ時間だ、とスティングが声をかけてきた。 「わかった」 「……行く」 そちらの方が何よりも優先される。それはステラにもわかっている。アウルも同じなのだろう。だから、二人はスティングの言葉に素直に頷いて見せた。 |