「……本当にどこに行ったんだか……」 これだけ探し回っているのに、ステラの姿は見つからない。 このまま帰れば、キラが悲しむだろう。 そう思うから、二人は諦めずに彼女の影を追い求めていたのだ。 「先に帰っているなら、キラかネオから連絡があるはずだしな」 それがない、と言うことは彼等の元にまだステラが帰っていない……と言うことだろう。 「なんか……ザフトの連中、騒いでいねぇ?」 周囲を見回していたアウルがふっとこんなセリフを呟く。 「そのようだな」 確かに、なにやら騒がしい。先ほどは高速艇まで出航していったし……とスティングも頷いてくれる。 「あれは戻ってきたようだけどな」 ついさっき……と呟きながら、アウルは不安に襲われた。 まさか……とは思うのだが、あれにステラが乗っていた可能性はないだろうか。そう思ったのだ。 「戦闘モードに入らなければ、誰もステラが連合のパイロットだとは思わないだろうから、見つかっても心配はいらない、と思うんだが……」 同じ事をスティングも考えていたのだろうか。こんな呟きを漏らす。 「だよなぁ……キラがあんなに強いのと同じくらいに、信じられねぇよ」 ナイフを持たせれば、自分たちの誰もステラにかなわない。その事実が……とアウルは付け加える。だが、逆にその方がいいと判断されたのかもしれないと心の中で呟く。 銃と違って、ナイフであれば普段着でも隠せる。 そして、ステラのあの外見だ。 普段着で近くまで気がついても、彼女が《暗殺者》だと気づけないのではないか。 そう考えていた奴がいたとしてもおかしくはない。だから、彼女は白兵戦でもかなりの実力を持っている。 「連中でも、虚をつかれれば負けるだろうな」 訓練を受けた軍人でも、だ。スティングはそう断言をした。 「だから、大丈夫だとは思うんだが……」 それでも、不安を隠せない。 スティングの横顔がそう告げている。 「とりあえず……街の方へ向かってみるか」 この周囲にはいないことがわかったし……とスティングはため息をつく。 「だから、知らない人間には付いていくなってネオ達に言われていたのにな、あいつも」 おやつをもらっても付いていってはいけませんって、キラに笑われていたのに……とアウルも付け加える。それは、本当に小さな子供に向けて告げられる注意なのだ、とステラは気づいていなかったようだが。あるいは、キラに注意されたことだけしか認識していなかったのかもしれない、彼女は。 「でもステラだからなぁ……」 ふらふらとついていった可能性は否定できないな……とアウルもため息をつく。 「……ステラだから、問題なんだろ」 キラが心配しているのも、きっとそれに関係しているはずだ、とスティングが口にした。 「スティング?」 何を言っているのかわからない。反射的にアウルはスティングの顔をにらみ付けてしまう。 「何も知らない連中からすれば、ステラは多少頭の弱い可愛い女の子、って見えるんだよ。いわゆる、性的な対象として考えれば、都合がいいと思うバカがいてもおかしくはない」 そして、そんなことになった場合、彼女がどのような行動に出るか。 ここまで言われれば、スティングが何を心配しているのかアウルにもわかった。 「……後始末がいろいろと面倒だな」 ステラのことだ。そんな場面になって初めて自分が置かれている状況を理解するだろう。その後どのような行動に出るか。考えれば頭が痛い。 「まぁな。いざとなれば……忘れさせてもらえばいいだけだし……」 ネオかキラか……あの二人に頼み込んで記憶をすり替えさせてもらえばいいだけだ。 キラはともかく、ネオは経験豊富そうだしな……とアウルは心の中で付け加える。もちろん、そんなことは本人達に向かって口にはできないが。 「……そうだな」 そんなアウルの言葉に、スティングは複雑な口調でこの一言を返してくる。 「やっちゃうのは同じだろう?」 ステラは、あの二人どちらも好きなんだし……とアウルは呟く。 「そういう問題なのか?」 しかし、アウルの言葉を耳にした瞬間、スティングはあきれたような表情になる。どうやら、自分の意見が気に入らないらしいとアウルは判断をした。 「そういう問題だろう」 自分たちにしてみれば……とアウルは笑う。 「俺だって、そういう状況に陥らないとも限らないんだしさ」 その時には、ネオにでも泣きつくかなぁ……と彼がのんきに口にしたときだ。 前方から一台の車がこちらに向かっていることに気づく。 「アウル」 それがザフトの物らしい、と二人はすぐに判断を下す。 だが、いったい何故……と思う。この先にあるのは、自分たちが使っているコテージだけなのに、と二人の間で緊張が走る。 「なんでもないという態度を作っていろ」 ともかく、やり過ごすことが先決だ。 そういうスティングの言葉に、アウルは頷く。そして何の反応も見せずに行きすぎようとしたときだ。 「……ステラ?」 後部座席に信じられない存在を見つけて、アウルは思わず目を丸くしてしまった。スティングはスティングで何の前ふりもなく急ブレーキを踏む始末。 「……何で……」 「さぁな」 それは後で確認すればいいだろう。 今は、それよりも彼女を連れ帰る方が先決だ。 そう判断をすると、二人は車から降り立つ。 「アウル! スティング!!」 ステラもまた車から飛び降りた。その後を、真紅の瞳の少年が不安そうな表情でついてくる。 「どこ言ってたんだ、お前」 心配させるんじゃない! と普通の家族のようなセリフをアウルは口にした。そのまま、ステラの髪をなでてやる。 「……アウル……」 そんな彼に、ステラは困ったような表情を返してくるだけだ。これは、本当に意味がわかっていないな……とアウルは思う。 「ありがとうございました。帰ってこないので、探していたところです」 そんな二人の脇で、スティングが如才のない言葉を口にする。 だが、そんな三人を冷静に観察している視線があることにアウルは気づいていた。スティングも同様だろう。 それが誰なのか……と思って、さりげなく視線を向ける。そうすれば、藍色の髪に翡翠の瞳をしたザフト兵の存在が確認できた。 何か、いやだ……とアウルは感じてしまう。 「帰るぞ」 その気持ちはいつまで経っても消えなかった。 |