おぼれかけた少女を何とか崖の下の岩棚に引っ張り上げる。そして、ケガをした足首にハンカチを巻いてやっているときに、シンは彼女が震えていることに気づいた。 おそらく、ショックで体温が下がっているのだろう。 「死ぬの? ステラも、みんなも……死んじゃうの?」 こう言うときに、無用だと思っていたサバイバル訓練が役立つなんて、と思いながら、シンは手早く薪になりそうなものを探す。 「大丈夫……俺が、ステラを守るから……」 たき火を起こしながらシンは彼女に向かって微笑む。 「……本当?」 「あぁ」 確認をするように問いかけてくる彼女に、頷き返す。そうすれば、彼女はほっとしたような表情を作った。それを見て、シンもまた安堵をする。 「シンが、ステラを守ってくれるの?」 頑是ない子供のような口調でステラはこう問いかけてきた。 「ステラ、死なない?」 そう言えば、さっき彼女がパニックに陥ったのも、自分が『死にたいのか!』と言ったからではないか。つまり、彼女がおそれているのは《死ぬ》と言うことがらなのだろう、とシンは推測をする。 あるいは、ステラも自分の目の前で大切な人を失ったのかもしれない。 だから、こんな風な反応を見せるのだろうか。 「死なないよ。ステラは死なない。俺が守るから」 そう。 大切なものを守れる力が欲しくて、自分はザフトに入ったのだ。 ただ、プラントで出会った者達は皆、自分が守らなくてもいい存在で……だから、自分が守れる《誰か》が欲しかったのかもしれない。 「シンが、ステラを守る……」 ふわりとステラが微笑んだ。 「ステラは、キラを、守るの」 そして、こんなセリフを付け加える。 「キラ?」 誰なのだろうか、それは……とシンは心の中で呟く。 「ステラの、家族……守らなきゃ、いけない人」 だが、ステラのこの言葉で納得をした。 兄弟かそれとも親か――もう少し遠い関係かもしれない――が、あの戦いで傷ついているのかもしれない。あるいはステラのように――もしくはそれ以上に――精神を病んでいるのか。 「なら、そいつも俺が守ってやるよ」 こう言えば、ステラが嬉しそうに微笑みを深めた。 「その前に……安全な場所に移動しないとな。ステラは、泳げるか?」 少し行けば確か登れそうな場所があったはず……と思いながらこう問いかける。 「……泳ぐ?」 しかし、ステラは何のことなのかわからない……というように小首をかしげた。 ひょっとして、その意味がわからないのだろうか。 そうだとするのならば、いったいどうすればいいだろう。 彼女を抱えて泳ぐことはできるだろう。だが、目的地までたどり着けるだろうか。 はっきり言って、難しい。 ではどうすればいいのか。 シンは今度こそ本気で頭を抱えたくなってしまった。 「そうか……」 二人の報告を耳にして、フラガは思いきり眉間にしわを寄せた。 「やはり大物が潜んでいたか」 あのコンサートは、間違いなく本物の《ラクス》とデュランダルの会見から周囲の視線をそらすために行われたものだろう。 と言うことは、やはりもう一人の《ラクス》をあの歌姫は認めていた……と言うことか。 「……狙いは、やはり《キラ》か」 あの子供を取り戻すために両者は手を結んだのだろう。 それはどうしてなのだろうかとフラガは考える。 ラクス達であれば、まだ話はわかるのだ。彼女たちにとっても《キラ》がどれだけ大切な存在なのか、フラガ自身よく知っていた。だから、彼女たちがそのために動いたとしても当然だろう。だからといって、自分もあの子供を手放すつもりは全くない。 だが、プラントはどうしてなのか。 一番先に思い浮かぶのは、かつての自分たちのように彼をMSに乗せることだろう。 だが、そうだと言い切れないのは《キラ》という存在がどうやってこの世界に生まれてきたのかをフラガは知っているからだ。 いや、自分だけではない。 あの男も知っていた。 ならば、他にも知っている者がいる可能性は否定できない。 「……キラを、渡すのか?」 「そんなわけないよな、ネオ!」 子供達がこう問いかけてくる。 「当たり前だろう」 キラは自分のものだ。 相手が誰であろうと、渡すつもりはない……と言い切る。 「だから、お前達には今まで以上にがんばってもらわないといけないな」 でなければ、キラを奪われてしまうかもしれない……と付け加えれば、二人の表情が引き締まる。 「わかっている」 「……俺たちにもキラは必要だからな」 こう言って彼等が頷いたときだ。 「ネオさん」 庭にいたはずのキラが不安そうな表情と共に顔を覗かせた。 「どうした?」 「ステラが……まだ、帰ってこないんです。端末に連絡をれても、反応がないし……」 まさかとは思うのだが……と彼はさらに眉を寄せる。 「ったく、仕方がねぇな、あいつは」 そういうと、スティングが動き出す。 「探してくる。いいよな、ネオ?」 そして、アウルもだ。 「あぁ」 彼等が動いてくれれば、キラの不安は減るだろう。そう判断して、フラガは頷く。 「……行ってこい」 この言葉と共に二人は部屋から出て行く。 「ステラ……迷子になっているだけならいいんだけど」 「大丈夫だ」 言葉と共に、フラガはキラの肩を抱きしめてやった。 |