「……ここ、どこ?」
 周囲の様子を見て、ステラは呆然としてしまう。
 さっきまでは二人と一緒だったはずだ。それなのに、どうして今自分はここに一人でいるのだろう。
「スティング? アウル?」
 どこ? と周囲を見回しながらこう口にする。もちろん、答えは返ってこない。
「アウル……スティング……」
 とたんに心細くなって、ステラは仲間達の名前を呼んだ。そして、探しに来てはくれないか、と周囲を見回す。だが、影も形もない。
「スティング? アウル!」
 本当は別の名前を呼びたいのだ。
 しかし、それはダメだ、と言われている。
 どこで誰が聞いているかはわからない。
 その中に大切な《彼》を自分たちから取り上げようとする人間がいるかもしれない。
 だから、決して外で《彼》の名前を口にしてはいけないのだ。
 それはステラにもわかっている。
 だが、それでも呼びたいときがあるのだ……とステラは初めて知った。
「スティング……」
 その代わりに、ステラは仲間達の名前を繰り返す。
「アウル……どこぉ……」
 泣き出しそうになる寸前の声でステラはこう告げた。
「迷子なのか、お前」
 その時だ。彼女の耳に聞き覚えのない声が届く。
「この人混みじゃ無理はないけどな」
 視線を向ければ、真紅の瞳が確認できる。
「どこで別れたんだ? そこまで連れて行ってやるよ」
 この言葉に、どうするべきか……とステラは小首をかしげた。見知らぬ相手に気を許していいものか、とも思ったのだ。
 だが、このままここにいても意味がない事もまた事実。
 自分はかならずあそこに帰らなければいけないのだ。あそこには、自分たちの帰りを待っていてくれる人もいるし……とも。
「心配するな。変なことは考えてないから」
 不安なら、人目のあるところを通っていくぞ……と彼は付け加える。その言葉に、ステラは逆の方向に首を倒した。 「それに、ここにいる方が危ないぞ」
 もうじき、コンサートが終わる。そうしたら、ラクス・クラインがここを通ってホテルに行くはずだ、と彼は付け加える。
「……どうして?」
 そんなことを知っているのだろうか。ステラはそう思う。
「ラクス・クラインが泊まっているホテルへの一本道がここなんだよ」
 知らなかったのか? と言われて、ステラは素直に頷いてみせる。
「昨日、ついたから」
 ここに……と付け加えれば、彼は納得したという表情を作った。
「それで迷子か。確かに、ここいらは似たような建物があってわかりにくいもんな」
 来いよ……といいながら、彼は手を差し出してくる。
 いざとなったら、人目のつかないところで始末をしてしまえばいいか。そう判断して、ステラはその手を取った。

「変な子だったな」
 おそらく、自分の家族か知人を見つけたのだろう。
 少女は自分の手を振り払うと一目散に駆けだしていった。今まで一緒にいた自分のことなんか、振り向きもしなかったほどだ。
「でも、何でここに……」
 あの少女を見かけたのは二度目だ。
 しかも、出会ったのは全部違う場所だった。
 まるで、自分たちを追いかけてきたようにも思える。だが、そんなはずがないのだ。
 では、どういう事なのだろうか。
「あの子も……コーディネイター、なのかな?」
 だとすれば、状況は理解できるんだけど……とシンは呟く。
 アーモリー・ワンでは、オーブからプラントに移住してきた同胞達が多く働いていた。そんな中の一人がオーブから親戚を呼び寄せたとしてもおかしくはない。
 そして、あのころはまだオーブは地球連合に属していなかったから、避難してきた人間が戻っていて当然だろう。
 そして……オーブに住めなくなったコーディネイターが、ここにたどり着くと言うこともあり得る話ではないか。
 だから……とは思うのだが、何かが引っかかる。
 それは何なのだろうか。
 シンがそれを見つけようとしたときだ。
「シン」
 背後から落ち着いた声が響いてくる。
「こんな所にいたのか」
 振り向かなくてもそれが誰のものかわかった。
「別に……今は休憩中だろう?」
 どこにいてもかまわないんじゃないのか、とシンはレイを振り向く。
「……議長が我々をお呼びだ」
 シンの言葉に対し、レイはいつもの口調でこう告げる。しかし、その内容は予想もしていないものだった。
「議長が?」
 何故……と思う。
 これが目の前の相手ならばまだわかる。確か、彼の後見人は議長だったはずだ。しかし、自分もまで……というのはどういう事なのか、とも思う。
「そうだ。俺とお前、ルナ……それにアスランも呼ばれている」
 ミネルバのパイロット達が全員……と言うことなのか。
「何故……」
「さぁな。行けばわかるはずだ」
「……そうだな」
 議長の言葉であれば従わないわけにはいかないしな……とシンはため息をつく。そして、レイと共に歩き出した。