隠しがあります。タブキー連打か、全て選択で見つかります。


「大丈夫でしょうか」
 三人が乗った車を見送りながら、キラはこう呟く。
「あいつらだって、訓練はきちんと受けている。心配はいらない」
 前の時よりも簡単な任務だ、といえるだろう……と言えば、キラは小さく頷いて見せた。だが、その瞳はまだ不安に彩られている。
「それに、見かけだけならただの民間人で通用するだろう、あいつら」
 ザフトであればともかく、地球軍のパイロットがあんな子供だとは誰も考えない。もちろん、例外もいることはいる。だが、誰もが持つイメージはフラガのような体躯の大人だろう。
「……それもわかっていますが……でも……」
 スティングはともかく、他の二人の言動が……とキラは呟く。
「そのスティングがついているから、大丈夫だって」
 こう言いながらも、この調子では三人が戻ってくるまで心配し続けるだろう。それでは、キラの精神状態が不安定になってしまう。万が一のことを考えれば、それは避けたい、とフラガは考える。
 ただでさえ《ラクス・クライン》の名前でキラは不安を感じているのだ。
 それに、彼女がいると言うことはアークエンジェルも近くにいる可能性がある。
 マリューにしてもカガリにしても《キラ》の事となればどのような事でもやりかねない。その上、ラクスのそばにはあの《バルトフェルド》がいる。そう考えれば、頭が痛いとしか言いようがない。
 だから、せめて万全の体勢を整えておきたいのだ。
「本当にキラは」
 困ったな……とフラガはわざとらしくため息をついてみせる。
「ムウさん?」
 それにキラが慌てたような声を出す。もちろん、そうなることがわかっていたのだが。
「これからのことを考えれば、キラも体調を整えておかなければいけないのはわかっているな?」
 もし、このまま大規模な作戦があれば、キラは間違いなく《あれ》につながれるだろう。それが自分たちが生き残るために必要だ、と言うことはフラガにもわかっている。
 だからだ。
 だからこそ、キラにはストレスも何も感じて欲しくない。
 それがマイナスに作用すれば、最悪、キラは目覚めないかもしれないのだ。
 そんなことになるくらいなら、多少の叱咤は覚悟するさ……とフラガは心の中で呟く。あの男にしても、そういう理由があったとわかれば《処分》まではしないだろう。
「……ごめんなさい……」
 そんなフラガの態度をどう受け止めたのか。キラは小さく謝罪の言葉を口にした。
「怒っているわけじゃねぇんだけどな」
 本当にこのオコサマは……とフラガは苦笑を浮かべる。
「ただ、そんなに不安なら……忘れることをするか? って聞こうと思っただけなんだが」
 その意味がわかったのだろう。キラはうっすらと頬を染めた。
「……ムウさん、お仕事は?」
 否定の言葉の代わりに、彼はこう問いかけてくる。
「後は、あいつらの報告次第、だ」
 だから、何も心配はいらない。そう付け加えれば、キラはフラガの腕の中で伸び上がるとそっと口づけてきた。
 それがどういう意味なのか、フラガにはわかっている。
「いいこだな、坊主」
 キラの体を抱きかかえると、ためらうことなく歩き出した。

「何、あれ……趣味、悪ぃ」
 アウルが小さな声でこう呟く。
 確かに、それは否定できないな……とスティングも内心で同意をした。
 目の前にあるのはピンクのジン。
 そして、その手のひらで一人の少女が歌を歌っている。
 確かにその声は耳に心地いいと思う。だが、キラが言っていた《ラクス・クライン》の歌とは違うような気がしてならない。
 何よりも気に入らないのは、あのピンクのジンだ。
 派手な色も、味方を鼓舞するという点ではいいのだ、とキラが言っていたような記憶もある。
 だから、あれが戦場にあるというのであればかまわない。確か、自分たちがあの機体を奪取したときも似たような色のジンを見た記憶がある。そして、それはなかなか楽しませてくれた。
 しかし、目の前にあるあれは、ただの道化だ。
 戦うためではなく、あの歌を歌う少女を引き立てるための存在に成り下がっている。
「……戦時中なのにな……」
 あんな風に戦える機体を使うとは、とスティングは呟いた。
 それとも、あれは何かのデモンストレーションなのだろうか。
 自分たちには、これだけ余裕がある。それを見せつけたいが故のあれならば納得できるかもしれない。
 そして、あのザフトの兵士達の熱狂も、と。
「……でも、本当に、あれ、本物?」
「さぁな」
 アウルの問いかけに、スティングはそれだけ言い返す。それがわかるのは、間違いなく《キラ》だけだろう、とも。しかし、その名前を今口に出すわけにはいかないのだ。
 いったい、どこで誰が聞き耳を立てているかわからない。
 だから、彼の名前を口にすることは禁止だ。
「アウル、ステラ……わかっていると思うが……」
 それを二人にもう一度念を押しておこう。そう思ってスティングは視線を彼等へと向けた。
 しかし、そこにあるべき姿が足りない。
「……アウル……」
「しらねぇよ、俺は」
 アウルが慌ててこう言ってきた。
「ったく」
 勝手に動くな……と言ったのに、とスティングはため息をつく。
「探すか?」
「それしかないだろう」
 本当に、と呟きながらスティングは移動を開始する。それに、アウルもしたがった。