久々のオーブの大地は、アスランの周囲に新たな溝ができたことを教えてくれた。
 いや、それを作ろうとしているのだろうか――セイランが。
「……馬鹿な連中だ……」
 確かに、自分が今ここで得ている立場は《カガリ》個人の意志によるものだ。
 だが、とアスランは心の中で付け加える。
 それは恋愛感情に寄るものではない。むしろ、そんなもの、自分たちの間には存在していないのだ。
 自分たちの間に存在しているのは、ただ一人の存在。
 それを自分たちの手に取り戻すまでは何があろうと協力関係を解消する気にはなれないのだ。
 もっとも、取り戻した後は即座に敵対するかもしれないな……とアスランは心の中で苦笑を浮かべる。
 理由は簡単だ。
 カガリをはじめとした者達は、キラが望むならあの男も手元に取り戻すつもりらしいのだ。
 だが、自分は違う。キラを自分たちから取り上げたあの男なんて、今すぐでも殺してやりたいとすら考えてしまう。それでキラが壊れるなら……その時はそれでかまわない。それこそ、もう二度と自分から離れていこうなんて考えなくなるだろうし……とまで考えてしまう。
「……だが、それは最後の手段だな」
 あくまでも、キラが自分の意志でアスランを選んでくれることが重要なのだから。
「ともかく、報告しに行かなければいけないだろうな」
 カガリはすぐに動けないだろう。だから、自分が……とアスランは呟く。
 それに、と思う。
 もしできるのであれば、あの連中について調べたい。それには、ここでは不可能だろう。ここまで考えたときだった。
「そう言えば、皆が無事なのかどうか、確認していなかったな」
 あの一件でオーブの被害は少なかったとはいえ、皆無ではないのだ。そのわずかな者達の中に彼等が入っていないとは言い切れないだろう。
「まぁ、知らせがないところを見れば、無事なんだろうが」
 セイランであれば手を回して知らせない可能性もあるな……とアスランは考える。もっとも、彼等がそんな風に手を回したとしても個人的に連絡をくれるものがいないわけではないのだが。
「早めに顔を出しておくことにしよう」
 そうする方が無難だろうな。
 こう考えてアスランは動き出す。その背後をマリューとマードックが通り過ぎていったことに彼は気づいていなかった。

「……オーブ、ですか?」
 フラガの言葉を耳にした瞬間、キラは思いきり眉をしかめる。
「あぁ……そこで、次に乗り込む予定の艦と合流する手はずになっている」
 というよりも、現在、オノゴロで建造中だそうだ……という言葉に、キラだけではなくスティングも嫌そうな表情を作った。
「ウトナ……だったな。あいつがあの方と手を結んでいる。だから、何も心配はいらない、という話だが……」
 どこまで信用していいものかどうか、わからないのは事実だよな、とフラガはさりげなく付け加える。
 それに、といいながら彼はさりげなくキラへと視線を向けてきた。
「でも、命令なんだ」
 ここが居心地がいいのは確かだが、現在、宇宙で自分たちができる仕事はないと判断されたのだ、と彼は付け加える。
「……わかっています……」
 だが、どうしてよりによって《オーブ》なのか、と思わずにはいられない。
 あの地には《アスラン》や《カガリ》をはじめとした面々がいるはず。そんなところにうかつに自分が行けば、フラガ達と引き離されてしまうのではないか。キラはそれが不安だった。
「大丈夫だ。移動は人目に付かないようにする」
 そして、キラは与えられた家から出なければ見つからないに決まっている……とフラガは笑う。
「キラ……」
 フラガとキラの会話から何かを感じ取ったのだろうか。
 ステラがすり寄ってくる。
「オーブが、どうかしたのか?」
 アウルがこう問いかけてきた。
「キラをねらっている連中がいるんだよ」
 そんな彼に向かって、フラガが一言言い返す。
「こちらの勢力もそれなりに広がっているが……完全ではない。そして、こちらとは反対の立場に立っている連中の中に、キラを欲しがっている連中がいるのさ」
 自分たちから引き離してもかまわない、と考えているはず……とフラガは付け加える。
「マジ?」
 そんなこと……とアウルは目を丸くした。
「キラが、俺の側にいるのが気に入らないっていうのさ、そいつらは」
 正確には違うだろう、とキラは心の中で呟く。
 自分が心配をしてくれた人たちを裏切ってしまったから。それでも、フラガの側にいたかったから……そのことを、彼等が認めてくれないとわかっていたから、連絡を取らなかった。
 その事実が彼等を頑なにさせているのではないか。
「でも、キラは……ネオの、でしょう?」
 そして、自分たちの側にいてくれるのではないか、とステラは問いかけてくる。
「当たり前だ。俺は、キラを手放す来はないからな」
 お前らもそうだろう……とフラガは逆に三人に聞き返した。
「もちろん!」
「キラがいなくなると、あれこれ困るしな」
「キラと一緒にいるの」
 三人はそれぞれの口調で自分の意志を主張してくる。その言葉に、フラガは満足そうな笑みを浮かべた。
「なら、お前らがキラを守ってやれ」
 おそらく、自分は打ち合わせなどで出歩かなければいけないだろう。フラガはこう告げる。
「ネオさん!」
 その言葉に、キラは思わず彼の名を叫んでしまった。
 危険なのは自分だけではない。
 彼等は間違いなくフラガも探しているはずだ。そんな中で、一人で出歩くなんて……とキラは思う。
「なに。俺の方はなれているからな。だから心配はいらない」
 こう言ってフラガはキラに微笑みを向ける。それでも、キラは不安を隠せない。
「モルゲンレーテには近づかないしな」
 フラガは苦笑を深めるとこう約束をしてくれた。
 だが、それをどこまで信じればいいのだろうか。
 キラにはわからなかった。