三人はゆりかごの中で穏やかな表情を見せて眠っている。その事実に、キラはほんの少しだけ安堵のため息をついた。 「キラ……」 そんなキラの体をフラガの腕がそっと抱きしめてくれる。 「大丈夫です、ネオさん」 自分を包み込んでくれる胸に、そっと体を預けながらキラはこう囁いた。 「ただ、やっぱり疲れているみたいで……」 というよりも、あの光景が衝撃的だったのだ……と言うことはわかっている。だが、それを口にするわけにはいかないだろう。フラガの言葉に逆らって起きていることを洗濯したのは自分なのだから、と。 「あのな、キラ」 そんなキラの耳に、フラガのため息が届く。 「俺の前でまで、そんな無理はしなくていいんだぞ?」 というか、するな……と彼は囁いてくる。 「……ネオ、さん……」 「お前にとって……ここがいい環境でないことは俺がよく知っている。それでも、お前をここに縛り付けているのは俺だからな」 だから、自分にだけは遠慮をするな……と彼はさらにキラの体をきつく抱きしめてきた。 「……わかっています……」 でも、とキラは思う。 それをしてしまったら、自分はきっと一人では立っていられなくなってしまうだろう。そうしてしまえば、フラガに今まで以上の迷惑をかけてしまうことになるのではないか。それが一番恐いのだ、とキラは心の中で付け加える。 「まぁ、そういう頑固なところもお前らしいがな」 小さなため息と共にフラガの腕がキラを抱き上げた。 「あいつらは放っておいてもいい。そして、あちらからも当分は連絡がないはずだ」 だから……と囁かれた言葉の意味がわからないわけがない。 「……ネオさんが……いいって言うなら」 少し、ぬくもりをわけてください……とキラは囁く。そうすれば、フラガが笑みを返してくる。 「いくらでも……坊主が望むだけ、な」 それが、自分にとっても望みなのだから……とフラガはキラの唇の中に直接言葉を吹き込んでくれた。そのまま、彼の舌がキラの口腔内を荒らし始める。 「……んっ……」 甘い声がのどの奥からこぼれ落ちた。 それが彼の耳に届いたのだろう。ますます笑みを深めたのがわかる。 でも……とキラは思う。 今、彼の顔を覆っている仮面が邪魔だ。 できれば、きっと、優しい色を浮かべているであろう空色の瞳が見たい。 しかし、それはここでは不可能だ。 「……ムウ、さん……」 吐息だけで、ベッドの中でのみ許されている彼の名を呼ぶ。 「わかってるって」 そのままキラの体を抱きかかえると床を蹴る。 「あの、自分で……」 移動できる……とキラは慌てて口にした。 「いいから、いいから」 俺が抱きしめていたいんだって……とフラガは口にする。しかし、彼の視線は前を向いたままだ。それが、どこか焦っているようにも感じる。 「俺も、お前を少しでも速く感じたいんだよ」 その言葉の裏にいったいどのような意味が隠されているのだろうか。 それを教えて欲しいな……とキラは心の中で呟いていた。 「……ムウさん……シャワー……」 使わせて欲しい……とキラが訴えてくる。 いつもであれば、その言葉を受け入れてやれるのだが……とフラガは心の中ではき出す。 「悪い、キラ……待ってやる余裕がない……」 この言葉と共にフラガはキラの体を腕の中に閉じこめる。同時に、服の裾から自分の手を滑り込ませた。 「ムウさん!」 この性急な行動に、さすがのキラも驚いたのだろう。慌てたようにフラガの顔を見上げてくる。 「いいこだ、キラ……おとなしくしてくれ」 今は、自分を抑えきれるだけの自信がないのだ、とフラガは正直に口にした。それでもキラには優しくしてやりたいのだ、とも。 「僕は……逃げません……」 そうすれば、キラは少し震える声で、それでもしっかりと言葉を口にし始める。 「どんなときでも、ムウさんの側にいますから」 だから、落ち着いてください……と言う言葉と共にキラはそっと背伸びをした。そして、そのままフラガの唇に自分のそれを重ねてくる。 「……そうだな……」 そのぬくもりを感じただけで、フラガはほんのわずかだが自分の心の中で荒れ狂っていた物がなだめられたような感覚に襲われた。 「キラは……どこにも行かないな」 いや、どこにも行けないようにしたのだ、自分が。 それでも不安を感じてしまうのは、彼をはじめとする者達の行動を知らされたからだろう。 彼等は、まだ、キラを諦めてはいない。 それはある意味予想していたことだ。 というよりも、そうなるだろうと考えていたことも事実。だからこそ、自分はあの男の誘いに乗ったのだ。 「僕は……ムウさんの側以外のどこに行けばいいんですか?」 自分にはここしかないのに……とキラは囁き返してくる。 「そうだな」 ふっと優しい笑みを浮かべるとフラガはキラの唇に自分のそれを重ねた。そのまま、腕の中の体を抱きかかえる。 「ムウさん?」 何をするのだ、とキラが問いかけてくる。 「シャワー浴びたいんだろう? 付き合ってやるよ」 この言葉に目を丸くするキラに、フラガはまた口づけた。 裏はありません(苦笑) |