ユニウスセブンが大気のとの摩擦でゆっくりと崩壊していく。
 その光景をキラはかすかな痛みと共に見つめていた。
「……死ぬの?」
 不意にステラがこう呟く。
「みんな……死ぬの?」
 あの光に焼かれて……と彼女は自分で自分の体を抱きしめている。それはよくない兆候だ、とキラは思う。
「……大丈夫だよ、ステラ」
 そっと彼女の肩を抱くと、キラはこう囁く。
「キラ?」
「ザフトも無能じゃない。だから、大丈夫」
 それでも、被害は皆無ではないだろう。
 破片の落下角度等から見て、オーブへの被害は少ないかもしれない。そして、地球軍の施設がある地域も、だ。
 前者は偶然だが、後者はきっとある程度フラガ達がコントロールしたのではないか。そう言えば、以前、そんな計算をしたような覚えもあるし……と心の中で呟く。
「本当?」
「本当だよ……でなかったら、ネオさんがステラ達を帰還させるわけがないだろう?」
 もし、本当に危険であれば、破砕作業を行わせたはずだ。
 あちらにしても、自分たちが危険にさらされるような状況をただ見ているわけがないだろうし……とキラは心の中で呟く。
 他人の手は汚させても自分の手は汚さないのが《支配者》というものだから……と言うセリフを口に出すわけにはいかない。その程度の分別はキラにだってあった。
「そうだよ、ね」
 ふわり、とステラが微笑む。
 何よりも、目の前の少女をはじめとした者達を悲しませたくない。
「ネオ、は……何でも知っているんだもんね」
 無邪気にこう告げるステラに、キラも微笑みながら頷いてみせる。
「何言ってんだよ!」
 そこにアウルが割り込んできた。
「そのネオが言ってたじゃん。キラの方が自分より上だって。だから、凄いのはキラじゃねぇの?」
 こんなセリフを口にしながら、彼は背後からキラの首にすがりついてくる。
「そんなことはないよ」
 フラガならそういうセリフも口にしそうだ……と思いつつも、キラは苦笑を浮かべた。
「僕は、ネオさんがいてくれるから、こうしていられるんだもの……一番凄いのは、やっぱりネオさんだよ」
 彼がいなければ、そもそも自分はここに存在していなかっただろう。少なくとも、あの施設にあのままいれば《キラ・ヤマト》という人格は既にこわされ、ただの《道具》としての抜け殻が転がっていたに違いない。
 それと同じ事が目の前の彼等にも言えるだろう。
 フラガの元にいるからこそ、ただの戦争の道具にならずにすんでいるのではないだろうか、彼等は。
「ネオが一番で、キラは特別。それでいいだろう?」
 苦笑を浮かべながら、スティングも会話に加わってくる。
「そうだね」
 言葉を返しながら、キラは視線を外へと戻した。
 今は離れてしまった人々が地球にいるとは限らない。それでも、カガリをはじめとした彼等が、無事であって欲しい、とキラは思う。
 もう二度と会うことはできない、としても、そう考えることぐらいはフラガも許してくれるはずだ。そう信じていた。

 目の前のモニターに映し出された光景に、アスランは忌々しさを感じてしまう。
「でも……あの会話が流されなかっただけでもましなのか?」
 確かに、ユニウスセブンを落としたのは《コーディネイター》だ。しかし、その相手が《ザフト》ではないと言うことは目の前の映像からでもわかるだろう。ザフトは、あくまでもユニウスセブンの落下を阻止しようとしたのだから、と。
 だが……とは思う。
 これだけの被害が広がってしまった以上、プラントの行動一つで地球にいるナチュラルの怒りはコーディネイターに向けられるに決まっている。プラント以外でコーディネイターの居住が認められているオーブの被害が少なかったからこそ、余計に、だ。
「……アスラン……」
 カガリが不安そうに呼びかけてくる。
 おそらく、彼女も同じ考えに行き着いたのだろう。
「わかっている」
 だが……とアスランはさらに眉を寄せた。
「本当に……とんでもないことになったが……ミネルバやザフトのおかげで被害の規模は格段に小さくなった」
 そんな彼の前で、カガリは無理に明るい口調を作ってこんな言葉をつづり出す。それは、間違いなく本土へ戻ったときの予行だろう。
 でなければ、あいつらが何を言い出すかわからないのだ。
 しかし、カガリは前の大戦の英雄と言うだけではなく、この外見と気さくな性格で人々の支持を集めている。そんな彼女がマスコミに向かってプラント擁護の言葉を口にすれば、あるいはオーブ国内だけでもコーディネイターに対する悪感情を抑える事ができるのではないか。
 もちろん、カガリ自身もそれはわかっているはず。
「そのことは、地球のみんなも……」
 ただ、うかつなことを言わないように、自分の判断を仰ぎたいのだろう……とアスランが考えたときだ。
「やめろよ、このバカ!」
 とげとげしい声が二人の耳に届いた。
 視線を向ければ、あの怒りに染まった真紅の瞳が確認できる。
 デュランダル達から確認した彼の生い立ちを考えれば《アスハ》を憎んだとしても無理はないのではないか。そうは思う。
 だが、事情を知らない者が余計な口を挟んで欲しくない。
 そう思うこともまた事実だった。
「ユニウスセブンの落下は自然現象じゃなかった! 犯人がいるんだ! 落としたのは……コーディネイターさ」
 しかし、シンにはアスランの気持ちがわからないらしい。
「あそこで家族を殺されて……そのことをまだ恨んでいる連中が『ナチュラルなんて滅びろ!』て落としたんだぞ!」
 確かに、それも事実だ。
 だが、止めようとしたのもまた《コーディネイター》なのだ。
「それは……わかっている」
 そして、あの戦争で家族を失ったのは自分もカガリも同じだ。シンだけが、そんな状況に置かれていたわけではない。
 そして……とアスランは心の中で呟く。
 もっと辛い状況に置かれていた人間だっているのだ。
 しかし、それを指摘しても今のシンには聞き入れる余裕はないだろう。実際、彼は言いたいことを言ってしまえば、後はこの場から立ち去ってしまった。
「……アスラン……」
「気にするな、カガリ……俺たちは、自分の義務を果たすだけだ」
 そして、キラを探し出せるだけの環境を保っていなければならない。それだけが自分たちの望みだだろう。
 この言葉にカガリも頷いてみせる。ただ、その表情はこわばったままだった。