「キラ!」
 デッキに着くと同時に、ステラが抱きついてくる。
 一瞬遅れて、アウルもまたキラの側に近づいてきた。だが、ステラの体に阻まれているせいか抱きついてこれないようだ。
 それが気に入らないのだろう。
「ずるいぞ、ステラ!」
 キラの隣で唇をとがらせている。
「……アウル……」
 お前な……とあきれたような表情をしているのはスティングだ。
「だってさ。ステラは出撃前にもキラと一緒にいたじゃねぇか!」
 だったら、譲ってくれてもいいだろう……とアウルは主張する。
「だから、それもこれも、お前がこの前、ドジったからだろうが。ネオが心配して、キラに頼んだんだよ」
 恨むんなら、ステラのブロック・ワードを使った自分を恨め……という彼の言葉は正論なのかもしれない。だが、今のアウルには逆効果ではないか……と思うのだ。
「アウル」
 だが、このまま放っておくわけにもいかないだろう。この状況で何ができるか、と考えれば、答えは一つしか見つけられない。
「なんだよ、キラ」
 どこか憮然とした口調でこう言いながらも、アウルは素直に近づいてくる。
「ご苦労様。がんばったね」
 キラはステラの肩を抱いているのとは反対の手を伸ばすと彼の癖の強い髪の毛をなでてやった。
「本当? 本当にそう思う?」
 それだけでアウルの機嫌が直ったらしい。ぱっと顔を輝かせるとこう問いかけてくる。
「もちろんだよ。ステラも、スティングも……みんながんばったね」
 無事に帰ってきたし……とキラは微笑む。
「ともかく、三人とも着替えてきて。ね?」
 パイロットスーツのままでは、抱きしめにくいから……とキラは付け加える。それだけで、アウルが控え室へと飛び込んでいく。
「……犬だな、あいつ」
 あきれていいのだろうか……というようにスティングが呟いた。
「ごめんね。何か……余計に面倒な事態になったかも……」
 そんな彼に向けてキラは謝罪の言葉を口にする。
「いいって。キラの一言であいつの機嫌が直ったのは事実だし……ステラが落ち着いているのも事実ださしさ」
 ついでに、自分の負担が減ったこともまた事実だ……とスティングは笑う。そのまま、スティングはキラの腕の中から動こうとはしないステラへと視線を向ける。
「ならいいけど……」
 そう言いながら、キラはスティングに頷き返した。
「ステラ」
 そして、腕の中の少女に声をかける。
「着替えてきて? 話は、それからでもできるだろう?」
 きっと、ネオもすぐに来るだろうから……と付け加えれば、彼女は小さく頷いて見せた。だが、それでもキラの腕から抜け出そうとはしない。
「いる?」
 キラの顔を見上げると、ステラはこう問いかけてきた。
「みんなが着替え終わるまで、ここにいるよ。だから、安心して」
 ね、と囁けば、ようやくステラはキラの腕の中から抜け出す。
「ほら。急がないと、アウルが出てくるぞ」
 そんな彼女の肩を抱くと、スティングが控え室へと促していく。その動きを見送っていたときだ。
「……あの……」
 キラに声をかけてくるものがいる。あの三人以外では珍しいことだ……と思いながら、キラは声がした方に視線を向けた。
「ブリッジから連絡が入っています」
 そうすれば、二十歳前後だと思える整備クルーがこう告げる。その態度が今までとは微妙に違っているような気がしてならない。
「ありがとうございます」
 だが、その理由を知る必要はないだろう。
 今の自分にとって重要なのは、ブリッジからの連絡の方だ。
 キラはそう判断をすると、端末へと移動していく。
「……僕です……」
 何と呼びかければいいのかわからず、キラはこう呼びかけた。
『キラか……俺だ』
 そうすれば、フラガの声が返ってくる。その事実にキラはほっと安堵のため息をつく。
「どうしました?」
 だが、彼が今までこんな風に連絡を入れてきたことはない。何かあったのだろうか、と思いつつ、キラは聞き返した。
『三人の様子は?』
「普通だ、と思いますけど? 特に、異常は感じられませんでした」
 ますます彼の行動がわからない。そう思いながら、キラは彼に言葉を返す。
『そうか……悪いが、すぐに顔を出せそうにないんだ……』
 だが、この言葉ですぐに状況が理解できる。おそらく、彼等が持ち帰ってきたという映像をあちらに送らなければいけないのだろう。そして、これからの行動の指示を受けなければいけないのか。
「わかりました……とりあえず、みんな、ゆりかごには入らなくていいのですね?」
 その時にはかならず彼が立ち会うことになっている。それは、彼等の《条件付け》に必要な事実なのだ、とか聞かされた。
 だから、今は休憩を取らせて置けばいいのだろう……とキラは判断をする。
『そう言うことになるな。頼めるな?』
「……僕でいいのなら……」
 フラガの言葉に、キラはこう頷き返す。
『お前でなきゃ、頼めないって』
 そんなキラに向けて、フラガは優しい笑みを向けてくる。仮面で見えないが、その瞳も同じように優しい光をたたえていることだろう。
「お仕事に戻ってください。こちらは引き受けますから」
 だから、キラも彼に向けて微笑み返す。
『すまんな』
 そんな彼に気にすることはないというように首を横に振ったときだ。
「キラ!」
 着替え終わったらしいアウルが近づいてくる気配がする。
 フラガにも彼の声が聞こえたのだろう。苦笑と共に通信が終わる。その事実が少し寂しいかと思いながらも、キラはアウルの方を振り向いた。