かすかにフラガが身じろげば、隣で眠っているキラとの間に隙間ができる。
 その距離も我慢できないのだろうか。
 キラが手を伸ばしてくる。それは間違いなく無意識の仕草だろう。
「俺は、ここにいるだろう?」
 こう囁きながら、そっと細い体を抱き寄せてやれば、彼の口元に柔らかな微笑みが浮かぶ。それキラに対するが愛おしさを募らせる。
「キラ……」
 もう離さない、とフラガは吐息だけで付け加えた。そのまま彼の体をさらに胸の中へと抱き込む。
「……だから、お前もどこかに行こうとするんじゃない。俺の声だけを聞いていろ」
 そして、一緒に堕ちよう。
 フラガはこう囁くと自分も眠るために瞳を閉じる。
 胸に乗せられたキラの重みが、久々に安眠を彼にもたらせてくれた。

 しかし、そうでなかった者達もいる。
「やはりねぇ……」
 報告を耳にした瞬間、バルトフェルドは妙に納得をしたというような表情でうなずいていた。その余裕が気に入らない、とアスランは思う。
「バルトフェルドさん」
 思わず非難するように彼の名を口にしてしまった。
「考えてごらん、アスラン・ザラ。いくら地球軍のエースパイロットだったとはいえ、フラガ氏はいわば裏切り者の脱走兵だ。本名のまま、在籍させると思うかね?」
 本人であれ、その替え玉であれ……と彼は付け加える。
「そうですわね。キラのこともございますし」
 話を聞いて急遽プラントから駆けつけたラクスも、この言葉にうなずいて見せた。
「ただ、私としてはフラガ様ご本人がキラを連れて行った、と思いますわ」
 そして、爆弾発言をしてくれる。
「ラクス!」
「落ち着いてくださいませ、カガリ。フラガ様が《ご自分》の《意志》でそうなさったとはもうしておりませんわ」
 何を言うんだ、と言うカガリを制して、ラクスは言葉を口にした。
「マインド・コントロール……かね?」
 ラクスが何を言いたいのか、バルトフェルドは理解したのだろう。意味がわからないというように首をかしげているカガリのために彼女にこう問いかけた。
 いや、それはカガリだけではない。アスランも同じ状況だった。
「キラの例がありますもの。あの者達がフラガ様に施したとしても、おかしくはないのではありませんか?」
 キラを手に入れるために……とラクスはきっぱりと告げる。
「キラ……を手に入れるために?」
 その言葉の意味をようやく理解し終えて、アスランは言葉を返す。
 目的はわかったが、その理由はわからないのだ。
 確かに、キラは元地球軍の少尉で、しかもエデンの被害者の一人だ。だが、前者はともかく、後者だけであれば他にも大勢いる。キラのようにある意味隠されている存在よりももっと簡単に手に入れられるものがいるはずなのだ。
 それとも、もう一つの理由からなのか。
 だが、それにしても、ここにいるメンバー以外で知っているとすれば、当の本人とフラガ、そしてラミアスぐらいであるはず。肝心のオーブの上層部に認知されていない以上、何の意味も持たないのではないか、とアスランは思う。
「私も詳しいことは存じ上げませんが……キラは他の方々とは微妙に違うマインドコントロールを受けていたそうなのですわ。ですから、エデンの情報を確認したかったのですけれど……あれは、現在、全て非公開なのだとか……」
 読みたければハッキングをするしかありませんわね……とラクスは口にした。
「そんなこと……それこそキラでなければ……」
 不可能だろう、とアスランは思う。
 もちろん、時間をかければ可能だろうが、その間に気づかれないとも限らないのだ。
「もっとも、その前にしっかりと請求させて頂いて、ここにありますけど」
「ラクス!」
 何でそれを先に言わない、とカガリが口にする。
「お願いです、ラクス。今の俺たちに貴方の言葉に付いていく余裕はないのです」
 アスランはアスランで、こう抗議の言葉を口にした。
「それでは、キラの居場所を見つけ出すことは不可能ではありませんの?」
 しかし、ラクスは平然と言い返す。
「お二方とも、キラを心配して取り乱されているのはわかります。ですが、それでは些細な手がかりを見失われるのではありませんか?」
 それではとてもキラを取り戻すことは不可能なのではないか。彼女の指摘は当を得ているだけに手厳しい。
「……確かに、そうかもしれませんね」
 認めることは難しいが、認めないわけにはいかない。アスランはそう判断をしてこう口にする。
「そうだな……私たちは既に、あいつらに後れを取っているんだから」
 キラを取り戻すには、どんな些細な情報でも見逃してはいけないのだ。
 カガリは自分に言い聞かせるようにこう呟く。
 一般の家庭で育ったキラとは違い、元々、オーブの後継者として育てられたカガリだ。熱くなりやすいのが欠点と言えば欠点だが、それでも冷静になれば状況を認識する能力は高い。
 そして、自分が激高していてはキラを取り戻すことは不可能だ、と判断したのか。カガリは必死に冷静さを保とうとしながらこう口にした。
「では、それぞれ動いてもらってかまわないかな?」
 まずは情報収集と、データーの分析だ、とバルトフェルドが指示を出す。それに、アスラン達は決意をこめて首を縦に振って見せた。