それは、一瞬の気のゆるみが引き起こしたのか。 それとも、別の恣意が働いていたのだろうか。 どちらなのかはわからない。 「……キラ!」 気が付いたときには、キラの体は最初いた場所から遠く離れた場所まで吹き飛ばされていた。その事実に気が付いたバルトフェルドが全身でかばってくれなければそのまま壁にたたきつけられていただろう。 「何があったのかね、アスラン?」 キラがほっと息を吐き出すと同時に、バルトフェルドが彼に問いかけている声が耳に届く。 「あの……僕がミスをしたのだ、と……」 キラは慌ててこう口にした。だが、バルトフェルドは耳を貸してくれない。 「アスラン?」 再度彼に問いかけの言葉を投げかけている。 「すみません。トラップに気づきませんでした」 アスランはアスランでこう言い返した。 「俺が気づくべきことでした。申し訳ありません」 きっぱりと自分の非を認めた彼に、バルトフェルドは満足そうにうなずいてみせる。 「作業になれてきたのだろう。それに関してはいいことなのだが、そのために確認がおろそかになってはいけない」 アカデミーに入校したとき、真っ先にたたき込まれたのはそれではないのか、とバルトフェルドはそれでもさらに言葉を重ねた。 「今回は、たまたま何事もなく終わった。だが、次回もそうだ、とは言い切れないのだぞ?」 あるいは、キラの存在を失っていたかもしれない。こう付け加えられて、アスランが唇をかんだのがキラにも見える。 「君もだぞ、少年」 今度は矛先がキラへと向けられた。 「君がアスランをかばおうという気持ちはわかる。だが、このようなときには逆効果だ」 そして、こう言ってくる。 「……ですが……僕が気づかなかったことも原因ですし……」 アスランだけを責められないのではないか、とキラは口にした。 「まぁ、そう言うことにしておこう。彼も十分懲りたようだしね」 君も、落ち着いたようだし……と付け加えながら、バルトフェルドはようやくキラの体を解放してくれた。 「だが、気をつけないといけない。彼だけではなく、女性陣たちにまで責められるのはつらいからね」 自分が悲惨な目に遭わないように、十分注意をして欲しい……と彼は苦笑混じりに付け加える。 「二人とも、そんなことは……」 「いや、キラは知らないだけだ。カガリはもちろん、ラクスもラミアス元艦長も、キラの安全を第一に考えろと言ってくるよ」 キラの言葉を遮るようにアスランも口を開いた。 「坊主……頼むから、俺たちのためにも怪我だけはしないでくれ」 でないと自分たちまで怪我をする……とマードックまでが参戦してくる。 「そうなんですか?」 とても信じられない、とキラは思う。 同時に、そんな風に彼女たちの存在を受け止められる日が来るとは思わなかった……と心の中で付け加えた。 彼女たちも含めて、全ての人々から逃げ出したいと思っていたことも今では昔のように思える。もっとも、だからといって人と積極的に交わりたいと思っているわけではない。人目に付かない場所に行きたいと言う気持ちには変わらないのだ。 「そうなんだよ……僕たちの幸せのためにも、君にはかすり傷一つつけられない、と言うことだね」 苦笑混じりにバルトフェルドはこう告げる。それにどう言葉を返すべきか、キラは思わず悩んでしまった。 「……キラ……」 その光景を、フラガはよりによってリアルタイムで見てしまった。 これも、間違いなくあの男の策略なのだろう。でなければ、このタイミングで、自分たちがここにいるはずがないのだ。 「ネオ……あれって……」 隣で作業をしていたステラがモニターに映し出されているキラに気が付いたのだろう。フラガの制服の袖を引きながら、声をかけてきた。 「ネオの恋人、でしょう?」 それに、フラガは無意識のうちにうなずいてしまう。次の瞬間、彼はしまった、というように、舌打ちをした。 「ネオの恋人?」 「誰が?」 残りの二人がしっかりと自分とステラの会話を聞きつけて近寄ってきたのだ。 「お前ら……終わったのか?」 事前にばらしてしまったステラはともかく、この二人にまでキラの存在がばれると厄介だ。そう判断をして話題をそらそうとしたのだが、 「終わった」 「そのうち、確認した連中から連絡が来るんじゃねぇ?」 時間になれば……と二人とも笑ってみせる。つまり、それまで悟られない自信がある、と言うことだろう。 だが、どこまで信用していいものか。 「……そう言うことにしておいてやろう。なら、撤退だな」 自分たちの存在はまだ極秘なのだし……とフラガは言外に口にする。 「だから、その前にさ。ネオの恋人の顔を拝ませてよ」 まだ時間はあるんだろう? とアウルが笑う。 「いっそ……一緒に連れて行けばいいんじゃないの」 普段は一般的な判断を下すスティングすらこう言ってきた。 「お前らなぁ」 「賛成……あの人、写真で見るよりすてきだもの」 フラガの言葉を遮るかのように、ステラまでこう告げる。 三人の意見がここまで一致している、と言うことは、誰かの恣意が働いている、と言うことなのだろうか。 フラガはこんなことすら考えてしまう。 「極秘だって言っただろう」 人が必死にそうしたくなる衝動に耐えているのに、とフラガは心の中で付け加える。 「人一人ぐらいなら、拉致できるんじゃねぇ?」 自分たちが黙っていればいいだけだ……と言い切るアウルの言葉はそれなりの自信に満ちていた。そして、それが口先だけではないことをフラガも知っている。 だが、まだ悩んでいる自分がいることも、彼は自覚していた。 |