よほど自分は《オコサマ》に縁があるのだろうか。
 目の前でシミュレーションを行っているパイロット二人の様子を確認しながら、フラガは苦笑を浮かべる。
「あるいは……坊主のせいかね、これも」
 自分が《オコサマ》の扱いになれている、と判断されたのは。
 だが、そうだとするのであれば、大きな誤解だ、とも思う。
 自分が大切にして、それこそ細心の注意を払って守ったのは、相手が《キラ》だったからだ。
 目の前の存在はキラのそれとは比べものにならない。
 だが、任された以上、それなりのことをしなければならないだろう。まして、相手はキラよりも年下らしいし、と。
「まぁ、可愛いんだけどね……」
 それなりに……と呟く。
「しかし、あそこまで動けるのは……そう言うことか?」
 ナチュラルであれば不可能だとしか言いようがない動きを、目の前の子供達は楽々とこなしている。それが何を意味していることか、わからないフラガではなかった。
 あの男達はこの子供達を《存在していないもの》と言っている。
 そして、あの戦いの時、キラが調べ上げた事実。
 つまり、あの戦いの時に戦災孤児になった子供達を連れてきて、人工的に肉体を強化したのではないか。
 そう判断をした。
 確かにそのおかげで彼らはコーディネイター並みの力を手にすることができた。しかし、それを手放しで喜んでいいものなのかどうか、フラガには判断ができない。
「なぁなぁ」
 こんなことを考えていたときだ。
 子供の内の一人――《アウル》という名の方がムウの袖を引く。
「俺の動き、どうだった?」
 そして、ほめて欲しいというようにムウを見上げてくる。
「……まぁまぁだな……ちょっと無駄な動きが多い」
 それをなくせばもっといい成績が出るはずだ……とフラガは口にした。
「そっか」
 そうすれば、彼は悔しそうに呟く。
「スティングは、慎重なのはいいが……もう少し早く判断をしないと、撃墜されるぞ」
 もっとも、それができるとすればキラやアスラン、それにディアッカクラスのパイロットだろう。だが、ザフトにそんな面々がまだいないとは限らないのだ。
「わかりました」
 アウルとは違い、スティングは冷静に状況を判断できるらしい。もし、この二人を組ませるとするのであれば、スティングの方を上位にさせなければいけないだろう。そう判断をする。
「がんばっているようですね」
 その時だ。
 今まで姿を現したことがない男がシミュレーションルームへと足を踏み入れた。そして、その背後には一人の少女がいる。
「この子はステラです。貴方にお預けする三人の内の最後の一人ですが……」
 ここで男は意味ありげに笑う。
「彼らとは違い、貴方に対する依存心を強くしてあります。これで、ご希望が叶えられるかどうか、検証なさってください」
 たぶん、御納得頂けるものと確信していますが……と男は笑う。
「……だといいがな……」
 それに、こう答えるしかできないフラガだった。

「お久しぶりですわね、アスラン」
 今日はどうなさいましたの? と微笑みながらラクスは彼に座るように促す。そのラクスの背後にあるモニターには、カガリの姿が映し出されている。
『お前が緊急事態だと言うから、こうして、通信をつないでいるんだ』
 くだらないことだったらただではすまないぞ……という彼女に、アスランは微苦笑を浮かべた。だが、すぐにその表情を引き締める。
「少なくとも、俺たちにとってはくだらない……と言いきれない事態だ、と思うが?」
 だからこそ、キラを一人置いてここにやってきたのだ、とアスランは言外に付け加える。
「……キラには知らせなくない内容なのですね?」
 アスランの反応から何かを察したのだろう。ラクスがこう問いかけてくる。
「最近、バルトフェルド隊長が、ザフトの方々を動かして何かをしている、とは耳にしておりますが」
『そう言えば……キサカも何かをしていたな……』
 二人も表情を引き締めるとこう口にする。
「……キラには、内密にして欲しい。約束できるな、カガリ?」
 アスランは確認するように言葉を口にした。
『何で私だけ、名指しなんだ!』
 カガリが即座に反論をしてくる。
「お前は無意識に失言をするからな」
 アスランは釘を刺すように言葉を返した。どうやら自覚をしているらしい。カガリは言葉につまっている。
「そして……キラに知られた場合、あいつは姿を消しかねない。それが……俺たちの共通認識だ……」
 だから、絶対に知られるわけにはいかないのだ、とも。
『……わかった……』
 ここまで言われれば、さすがのカガリもこれ以上何も言う気にはなれないらしい。それにほっとしながらも、アスランはさらに表情を引き締めた。
「ブルーコスモスが……キラをねらっているらしい」
 この言葉を耳にした瞬間、二人が息をのんだ。
「キラにだけ依頼が集中していたのを、バルトフェルド隊長が不審に思って調べ上げたら……その背後に連中の影があったらしい」
 もっとも、かなり巧妙に隠されていたが……とアスランは眉を寄せる。
「つまり、その事実関係について、私たちに確認して欲しい、とおっしゃるのですね?」
 ラクスがアスランの言葉を奪うようにして問いかけてきた。
『お前らがあまり大々的に動くと……キラに気づかれる、か』
 カガリにもその理由がわかったらしい。大きくうなずいて見せている。
「頼む……」
 本当であれば自分自身の手でやりたい。だが、それではキラに悟られてしまうのではないか。第一、自分がキラの側にいることすら、彼は不審に思いかけていたらしい。だから、こうして、一人でここにやってきたのだが。
「わかりました。私も、キラを失いたくありませんもの」
『そうだな。フォローできない場所に行かれたくない』
 二人は口々にこう告げる。それはアスラン達が希望していたセリフと同じものだ。
 だから、任せても大丈夫だろう。
 アスランはそう思いたかった。