夜はしっかりとカガリの部屋へと拉致されてしまった。しかも、だ。そこにはラクスの姿もある。 「たまには良いだろう。女同士なんだし」 そう言って彼女は笑う。 「そうですわ」 ラクスもカガリに味方をするように頷いている。 「それに、これも大切な交流ですわ。そして、この場でわたくしの護衛が出来るのはキラだけですもの」 もちろん、それは名目でもあるが……と彼女は笑った。 「プラントに戻ればこのようなことは出来なくなりますわ。ですから、今だけでも楽しんだ方がよいでしょう?」 違いますか? とラクスは首をかしげる。そうすると、桃色の髪がさらさらと音を立てて流れた。 「……ラクスには勝てないね」 最初から勝てるとは思っていないけど……とキラは苦笑を浮かべる。 「当たり前です」 それにラクスが胸を張った瞬間、周囲に笑いが漏れた。 「と言うことで、キラ」 一通り笑い終えたところでカガリが口を開く。 「お父様の許可は取った。時間があるときに、挨拶にいってくるといい」 もっとも、と彼女は笑う。 「あいつにその元気があれば、だがな」 今頃、カナード達にどのような目に遭わされているか。その言葉に不安を覚えたのはキラだけかもしれない。 「……ギルさんがいるから、大丈夫だとは思うけど……」 しかし、彼の性格を考えればあてになるとは言い切れない。 むしろ『面白いから』と言って放置する可能性の方が大きいのではないか。何と言っても、彼はラウの親友なのだし……と心の中で呟く。 「そのあたりは、あいつも覚悟しているだろう」 何せ、自分たちがそれなりに手を出しているから……とカガリは笑う。 「お父様が適当なところでフォローを入れてくれるだろうしな」 だから、ここにいる間に一度は確実に足を運べるはずだ。それで妥協しろ……と彼女は付け加えた。 「……だと良いけど」 でも、不安なんだよね……とキラは素直に告げる。 「最終日までいけないときには、私が何とかしてやるから」 不安が顔に出てしまったからだろうか。カガリが慌てて言葉を口にする。 「うん」 あてにしている……とキラは小さな声で告げた。 そのころ、ミゲルがどうなっていたか……と言えば、キラの想像通りだった。 「……俺は、ただの護衛なんですが……」 目の前にいる者達に向かって、そう告げる。 「わかってはいるが……このアスハ宮殿の中では何も心配はいらない」 だから、飲め……と言うように、相手は酒瓶を差し出してきた。 「一応、俺はここの法律では未成年と言うことになっているんですけどね」 まぁ、飲めないわけではないから……とグラスを前に出す。 「気にするな。カガリ様は、あれでもかなりいける口だぞ」 それも問題ではないか。思わずそう言い返したくなってしまう。 「まぁ、キラ様はあまり嗜まれないようだが……」 しかし、彼が小声で付け加えた言葉に、ミゲルは眉根を寄せる。 「あんた……」 「昔、あの方の母君にはお世話になってな。うちの義理の息子と娘は、あの方にコーディネイトして頂いた」 もっとも、その子達の親――父親が彼の親友だったらしい――はキラの養父母が命を落とした事件で、同じように命を落としたのだとか。だから、その子供達を彼が引き取ったのだ、と教えてくれる。 「だから、あの方には幸せになって欲しい。そう思っているものはオーブには多い……と言うことだよ」 そう言われて、ミゲルは改めて相手の姿を確認する。軍服の襟に付けられた階級章から判断して、それなりの立場の人間ではないか。 「本来であれば、この国でカガリ様と一緒にお育ちになって欲しかったのだが……セイランのこともあったからな」 だから、と彼は悔しげに呟く。 「でも、プラントでよい人々に巡り会えたようだ。それだけでもよかったと言うことにしておこう」 この言葉を耳にした後で、ミゲルはグラスの中身を一息に飲み干す。 「絶対に幸せにしてみせるって」 でなければ、キラの隣に立つ権利を得た意味がないだろう。ミゲルはそういながら、彼にグラスを差し出した。 |