キラからの報告に誰もが視線を彷徨わせた。
「……とりあえず、あくまでも海賊に対する警戒だ、と二人には告げるように」
 でなければ、自分たちの手には終えなくなる可能性がある。クルーゼがため息混じりにそう言う。
「率先して飛びだしていくだろうな、カガリは」
 カナードもため息混じりに付け加える。
「こうなるとわかっていれば、もう一人、誰かを連れてきたのだが……」
 キラとレイだけでは、本気になったあの二人と止めきれないのではないか。そう彼は続けた。
「まぁ、キラが泣けば話は別だが」
 そうすれば、少なくともカガリは止まる。カナードのこの言葉に、キラは苦笑を浮かべることしかできない。
「でも、できればそれは最終手段にしたいんだけど」
 でないと、別の意味で怖い……とその表情のまま、口にする。
「確かに」
 キラに泣かれたら、自分が悪いわけではなくても集中力が削がれるな……とミゲルが頷いて見せた。
「と言うわけで、さっさとあいつらを見つけてひっつかまえないとな」
 カガリもいつまでごまかされてくれるかわからない。カナードがため息とともに続けた言葉に、誰もがうんざりとした表情を作った。
「オーブ側も探している。それに、わざと我々の航路はオープンにしてあるからね」
 間違いなく、狙われるとすればこちらだろう。クルーゼはそう言った。
「……隊長……」
「構わないだろう? あれを殴りたいと思っている人間はたくさんいるのだから」
 他の者達に確保されれば、それも出来なくなるよ。その言葉に、頷いている者達がいるという事実に、どう反応をすればいいのか。キラは思わず悩みたくなる。
「ともかく、近いうちに接触できるというのは間違いないだろうね」+  気を抜かないように。クルーゼは静かに告げた。

 その機会は、予想よりも早く訪れた。
「……本当に来るとは……」
 あきれたくなる、とキラは小さな声で呟く。
「海賊か?」
 カガリが、どこかわくわくした表情で問いかけてくる。
「あるいは、ブルーコスモスかもしれないけど」
 今回のことを邪魔したいと思っているに決まっているから、とキラは言い返す。
「……連中は、何でこんなにバカなんだ?」
 既に勝敗は決している。それはわかっているはずだろう、とカガリは言う。
「バカだから、ではありませんか?」
 まだ、自分たちが巻き返す可能性があるかもしれない。だから、と考えているから、無駄な戦闘を繰り返しているのではないか。レイがこういう。
「あるいは、人の命すらただの道具と考えているか、です」
 コーディネイターをそう考えているのだ。あるいは、自分たち以外のナチュラルも同じだと考えているのではないか。彼はそうも指摘する。その言葉に、カガリは思いきり顔をしかめた。
「ないとは言い切れませんわ」
 ラクスが静かな声で告げる。
「まぁ、な」
 だからこそ、連中は遺伝子関連の技術も欲しがっているのだろう。カガリはそう言って顔をしかめた。
「もっとも、それを渡す気はないが」
 あれを渡したらとんでもないことになる。そう言うカガリに、キラは小さな声で「そうだね」と頷く。
「心配するな。あのデーターを取り出すには、私とお前、二人揃わないとダメだそうだ」
 しかも、そこにたどり着くまでにはマルキオの立ち会いが必要だという。
「なら、大丈夫だね」
 ほっとしたようにキラは口にした。
「それよりも……外の様子は見られないのか?」
 それに安心をしたのか。カガリはこんなセリフを口にしてくれる。
「カガリ?」
「私たちを守るために戦ってくれているんだ。だから、それを見守る義務があるんじゃないか、と思うんだが……」
 ダメか、と言われてキラは小さなため息を吐く。
「外の様子が見られるとすれば、ブリッジしかないから。そこに、部外者を入れるのは流石に問題があると思うよ」
 その位のことは言われなくてもわかって欲しいと思う。キラは心の中でそう呟く。
「……まぁ、仕方がないか」
 思い切り残念そうな表情を作る。ひょっとして、先ほどのあれは単なる口実だったのか。そう思わずにいられないキラだった。



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