ごく一部の被害をのぞいて航海は順調に進んでいた。しかし、このまま何もないと思えないのは、どうしてだろう。
 そんなことを考えながら、ミゲルはキラ達のいる談話室へと顔を出す。
「キラ、いいか?」
 ドアの所から顔だけ出してこう呼びかける。
「ミゲル?」
 何、と言いながら彼女は直ぐに近づいてきた。しかし、その華奢な背中越しに棘を含んだ視線が飛んでくる。
「レイ。お前なぁ。シスコンもいい加減にしとけ」
 でないと、キラに嫌われるぞ……と即座にカガリがからかうように言った。
「そういうわけでは……」
 焦ったように彼は言い返す。
「でも、にらんでいらっしゃいましたわよ」
 ラクスのつっこみは厳しい。
「……それは……」
「あきらめろ。キラが選んだ相手だ」
 キラの気持ちが変わらない限り、何度も目にすることになるぞ。カナードが諭すように言う。
「それとも、ポジションを変わるか?」
 レイがオーブでサハクの双子の手伝いをして、自分がプラントでキラのフォローをするのでもいいぞ。彼はそうも続けた。
「それは絶対にごめんです」
 即座にレイはこう言い返す。
「……何を言っているんだか」
 本当に、と言いながら、キラはミゲルの肩に手を置いた。そして、そのまま床へと着地する。
「暇なんだろう」
 くすり、と笑いながら、ミゲルはそう言う。
「それよりも、何?」
 何かあった? とキラは首をかしげて見せた。
「隊長が呼んでいるだけだって。あぁ、カナードさんも同行してくれると嬉しいそうだ」
 この言葉に、カナードが微かに眉根を寄せたのがわかる。
「何でも、警備のことでちょっと相談があると言っていたが……」
 実際はちょっとミスした人間への嫌がらせだが……と小声で付け加えた。もっとも、ちゃんと他のメンバーにも聞こえる声量で、だ。
「わかった。それならいいけど……」
 そう言いながら、キラは視線をカナードへと向ける。
「レイ。二人を頼むぞ」
 こう言いながら、彼は立ち上がった。
「カナード」
「これが俺たちの役目だろう?」
 二人は大人しく守られていろ。そうでなければ、自分がサハクの双子に怒鳴られる……とカナードは笑いながら付け加える。
「それとも、お前が代わりに怒鳴られてくれるのか?」
 この言葉に、カガリは即座に首を横に振って見せた。
「なら、大人しく待っていろ」
 言葉とともに彼も床を蹴ってこちらに向かってくる。
「じゃ、行こうか」
 キラの肩に手を置いたまま、ミゲルは笑う。
「うん、そうだね」
 急いだ方がいいよね、とキラも笑った。
「でないと、本人が二、三日、使い物にならなくなるだろうし」
 クルーゼが本気で怒っているとすれば、と彼女は付け加える。
「同席している人たちは、胃薬が必要になるし……」
 用意してある分で足りるか、と真顔で付け加える彼女に何と答えればいいものか。そう考えているミゲルとキラを挟んで反対側にいるカナードも同じ事を考えているのか。複雑な表情を作っている。
「で?」
 だが、直ぐに表情を引き締めると彼は口を開く。
「実際には何が起きている」
 普通であれば、自分を呼ぶ必要はないだろう? と彼は続けた。
「来てもらうのが一番手っ取り早いんだよ」
 うまく説明できない。少なくとも、自分には。そう続ければ、彼は「わかった」と言って頷く。
「なら、急がないとね」
 キラの言葉に、三人とも速度を上げた。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝