その話を聞いた瞬間、カナードの表情が険しくなる。
「確かに、カガリには聞かせてはいけない話だな」
 何をしでかしてくれるかわからない、と彼はそのまま続けた。
「……ユウナ・ロマって……あの人?」
 いやそうな表情を隠そうともせずにキラが口を開く。
「他に、その名前を持つバカはいないからな」
 まったく、バカほど権力に執着をする……と吐き捨てるように口にしたのはカナードだ。
「ひょっとして、月にいた頃に俺以上にカガリに攻撃を受けていたあいつのことか?」
 何かを思い出したのか。アスランがこんなセリフを口にする。
「多分そうだ。お前以上にカガリが嫌っている相手と言えば、あいつしかいない」
 と言うよりも、アスランとの場合はケンカをすることを楽しんでいたようだが、ユウナ・ロマに関して言えば、まさしく蛇蝎のごとく感じていたはずだ。カナードはそう言う。
「……で? そいつは何をやったんだ?」
 是非とも聞きたい、とディアッカが口を挟んでくる。
「キラを人形のように思っていたからな」
 見た目さえよければ、男でも女でも関係ない。だから、安心していいよ。役に立つ間には側に置いてあげる……と言っていた、とアスランは感情を押し殺したような声音で告げる。
「……はぁ?」
 直ぐにはその言葉の内容が理解できなかった。それだけ、自分たちの常識の範疇を超えていたと言っていい。
「ほぉ……」
「そんなことを言っていたのか……カガリが教えたがらないはずだ」
 しかし、年長組は違ったらしい。即座に壮絶な笑みを浮かべてこう言っている。
「……それで、そのユウナ・ロマとそいつにしたがっている連中をどうしろと?」
 とりあえず、二人がとんでもないことを言い出さないうちに……とミゲルはとっさに口を開く。個人的には放っておいてもいいような気がするのだが、彼等の立場を考えればそういうわけにもいかないはずだ。
「とりあえず、保護……だそうだ」
 不本意だが、とクルーゼが口にする。
「生きていればいいからな。最終的には」
 カナードはカナードでこう言って笑う。
「と言うわけで、キラはカガリ嬢達が飛び出さないように見張りをしていてくれるね」
 とくにカガリが、とデュランダルが言った。
「君の代わりに、カナード君が動いてくれる予定だしね」
 その方が怖いような気がするのは錯覚だろうか。
「ですが……」
「大丈夫。先日、暇つぶしにシミュレーションに付き合って貰ったのだがね。十分な実力を持っていたよ」
 最低でも、アスラン達レベルだ。その言葉に、言われたメンバーが目を丸くしている。
「それは楽しそうですね。なら、今度、一回付き合って貰いたいものだな」
 その位、彼ならばあり得る。そう思ってミゲルはこういう。
「何なら、これからでも構わないぞ」
 即座にカナードはそう言ってくる。
「俺としても、こいつらよりはお前と組んだ方が動きやすそうだからな」
 そのセリフは何なのか。それ以上に厄介なのは、妙にプライドが高い他のメンバーかもしれない。アスランは彼の実力を知っているのか、仕方がないという表情を浮かべている。だが、イザーク達は明らかに怒りに近い表情だ。
「……言っておくけど、カナード兄さんは強いからね」
 出航前に何度か対戦したけど、とキラが口を挟んでくる。
「実力的には、ほぼ互角だったよ」
 気を抜くとやられていたかも、と彼女は付け加えた。
「たまたまだろう。俺も、かなり必死だったんだが」
 ふっと優しい表情を作ってカナードがこう言い返している。この落差は流石だとしかいいようがない。
「それはますます楽しみだな」
 しかし、ミゲルにしてみれば、久々に本気でやり合えると言うことのほうが重要だ。たとえ、自分がこてんぱにやられるとしても、だ。
「キラがそこまで言うんだ。かなりの実力の持ち主だ、と言うことだろうし」
 実力を知っていれば、作戦の組み立てをする参考になるだろう。
「そうだね。それはミゲルに頼もう」
 こちらは、オーブの他の首長達や最高評議会議員との話し合いに時間を取られるだろうから、とクルーゼは頷く。
「それと、キラ。それにアスランもだが……決してラクス嬢達には気取られないように。何かあれば、この近くで海賊騒ぎが持ち上がったから、と言ってごまかしておいてくれるかな」
 クルーゼの言葉に、二人は頷いた。
「イザーク達はそうだね……当面は大人しく待機をしていたまえ」
 あるいは、カナードとシミュレーションをしても構わないよ、と彼は付け加える。
 その言葉の裏に隠されている意味に彼等が気付いているだろうか。気付いていないだろうな、とミゲルは思う。
「何よりも、今は相手を探し出すことが最優先だろうね」
 微妙に口調を変えて告げられた言葉に、誰もが居住まいを正す。
「では、自分たちのなすべきことをしてくれたまえ」
 その様子に満足そうな表情を作りながら、クルーゼがこういった。



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