「そりゃ、怖いな」
 身近にラクスのスパイがいるか。あるいは……とミゲルはため息を吐く。
「盗聴器はないって調べたけど……でも、確実って言えないんだよね」
 ラクスだから、とキラは付け加える。
「そうだよな。相手はラクス様だ」
 そして、彼女の信者はザフトの高官にもいるし……とミゲルは言葉をはき出す。
「うちの隊にも何人かいるようだしな」
 そのまま、唇の動きだけでこう告げた。
「ミゲル?」
 何、とキラは聞き返してくる。
 そんな彼女に、視線だけで黙っていてくれるように告げた。
 さすがは長い付き合い、と言うべきか。それとも、彼女が自分を信じてくれているからか。黙って頷いていてくれる。
「ところで、ストライクのことなんだが……」
 そう言いながら、さりげなくキラの肩に手を置く。そして、移動をするように促した。
「あれ? 戦闘データーの解析と分析の話?」
 それを使ってシミュレーターのデーターを作ると言っていたけど……とキラは話題を会わせてくれる。
「ってことは、お前がするのか?」
「何か、そう言うことになっているみたい。他の機体も、だけど」
 まぁ、あれらを下手な人間に触らせたくないし……とキラは付け加えた。
「確かに。まだ、ブルーコスモスの構成員が完全に排除されたわけじゃないからな」
 完全に払拭されないうちは、安心して研究も出来ないだろうしな、とミゲルは頷く。
 そのまま、二人は曲がり角へと着いた。その瞬間、ミゲルはキラの腰に手を移動させる。
「ミゲル?」
 ここで、とキラは抗議をしようとしたのだろう。だが、それよりも早く彼女の体を抱え上げる。そして、素速く手近なくぼみへと体を滑り込ませた。
「……静かにしていてくれ」
 多分、追いかけてくるから……とそう囁く。
「……それはいいけど……」
 近すぎ、といいながら、キラは頬を染める。
 考えてみれば、こんなに近くまで体を寄せたことはなかったか。布越しとはいえ、彼女の体の線がはっきりとわかってしまう。
「まぁ、それはそれで」
 まずいな、と思う状況にならないように、ミゲルは脳裏で厄介な計算式を思い浮かべる。
 しかし、その必要はなかった。焦ったような足音が響いてくる。
「ばれてもいい、と思っているのか?」
 どちらにしても、情報局には不向きだよな……とミゲルは笑う。
「そうだよね。これが、普通に近づいてくるなら、偶然とも言えるのに」
 キラもそう言って頷いてみせる。
「まぁ、今からはそんな必要もなくなるのか?」
 それとも、そちらの方が需要が増えるのか。
 どちらにしても、自分の性に合わないから、関係ないのだろうな……と心の中で呟く。
 そうしている間にもさらに足音は近づいてきた。
「キラ、悪いが……」
「うん。大丈夫」
 ミゲルに最後まで言わせることなく、彼女はさらに体を小さくする。そんな彼女を、ミゲルはさらにしっかりと抱きしめた。もちろん、のぞき込まれても二人の姿が見えないように、だ。こう言うときに、一般兵の《緑》は役に立つよな、と心の中で呟く。
「だから、もっと近づけと言っただろう?」
「そうしたら、絶対に気付かれますよ」
「その時は、話があったと言えばよかっただけだろうが」
 二人の耳に、こんな会話が届く。それが誰のものか、確認しなくてもわかってしまった。
「……いいのか? そんなに騒がしくしていると、ばれるぞ」
 ため息とともにこう告げたのは、アスランだろう。
「そうは言いますけどね! 元々アスランがもっとしっかり協力してくれていれば、こんなことにはならなかったんですよ」
 こう言ったのはニコルだ。
「って言うか、それをアスランに求めるのは非道じゃね?」
 ふられたばかりなのに、とディアッカがとりあえずフォローしている。しかし、それが追い打ちにしかなっていないような気がするのは錯覚か。
「ともかく、だ。さっさと二人を見つけないと……ラクス嬢の依頼が果たせないぞ」
 彼女だけは怒らせたくない。イザークのセリフに苦笑が浮かぶ。
 立場だけで言えば彼等も同じ最高評議会議員の子息だ。それなのに、彼女には頭が上がらないらしい。
「それはそれで平和でいいのかもな」
 苦笑と共に付け加える。
「って言うか、ラクス……」
 後で文句を言っておこう、とキラは呟く。
「頑張ってくれ」
 それに、こう言い返すしかできないミゲルだった。



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最遊釈厄伝