ミゲルが選んだのは、あまり人が来ない場所にある植物園だった。 だからといって、そこにある植物が貧相なのではない。むしろ、ものすごく立派だ。ただ、大輪の花を咲かせる種類が少ないだけ、なのに……と思う。 よくよく見れば、それらもちゃんと花を咲かせている。 そのささやかな花は見かけによらず薫り高い。 「凄いね」 その濃厚な香りに目を細めながら、キラは呟くように口にした。 「だろう? 花もいいけど、あまりに多いと目に辛くてな」 もちろん、それは冗談だろう。しかし、そう言いたくなる気持ちはわかる。 「そうだね。ラクスの温室でも、時々圧倒されるから」 庭園の方はそうではない。だが、温室には花々だけではなく小鳥まで放されている。デュランダルの所ではそんなことはしていない。逆に言えば、それが出来るだけの余裕がラクスの所にはあるのだろう。 だが、キラ個人としてはあんなに圧倒されるほどの花があふれる場所よりも、こんな風に秘やかに咲いている花を探す方が好きだと思う。 それはきっと、月にいた頃、カリダが育てていた花々にそういうものが多かったからかもしれない。 だからといって、ラクスの温室がいやなわけではないのだが。 「ラクス様の温室って、そんなに凄いのか?」 ミゲルがこう問いかけてくる。 「うん、凄いよ。本当に花園って感じ」 いつ言っても、花が咲いているから……とキラは苦笑と共に付け加えた。 「でも、凄すぎて、僕にはあわないかな?」 ラクスならそれこそぴったりなんだけど、と言葉を重ねる。 「そりゃ、ラクス様のだからな」 ラクスのために作られたものだろうから、それは仕方がない。ならば、とミゲルは苦笑と共に続ける。 「キラはキラで、自分のための温室なり何なりを作ればいいだろう? 手伝ってやるから、さ」 唐突に何なのだろうか。 「ミゲル?」 いったい、何でそんなセリフを……と聞き返す。 「……だから……」 何と言えばいいのか……と彼は頬をかく。 「いずれは、二人で一緒に住もうって……言いたいんだが……」 二人で一緒に住むと言うことは、とキラは考え込む。次の瞬間、その意味がわかってしまった。 「……ミゲル……」 それって、と言いながら、キラは自分の頬が熱くなるのを感じてしまう。 「……まぁ、プロポーズってことだな」 考えたら、それをしていなかったし……と彼は視線を彷徨わせながら告げる。 「今はとりあえず落ち着いているし、俺たちの出番もなさそうだし……いいチャンスかな、と」 もっとも、いやなら断ってくれていい。そう彼は続けた。 「いやだなんて、言うはずないじゃん」 ただ、とキラは続ける。 「そんなこと、言ってもらえると思ってなかったから……」 ただでさえ、厄介なメンバーがくっついているのに、とそう口走ってしまった。 「隊長ならなれているし、他の人たちも、まぁ、大丈夫だろう」 キラさえ味方でいてくれれば、と彼は笑う。 「まぁ、カガリちゃんだけは怖いけどな」 頼むから実力行使に出ないでくれ。そう付け加える彼にキラは苦笑しか返せない。 「……大丈夫だよ、多分」 カガリも、ミゲルのことは認めている。だから、大丈夫だ……と口にする。 「と言うことは、OKだと言うことでいいのか?」 ミゲルがそっと顔をのぞき込みながら問いかけて来た。 「聞かないとわからない?」 反射的に聞き返してしまう。 「って言うか……お前の声で聞きたいな、と」 教えてくれるよな? とミゲルが囁く。それに、キラもそっと囁き返す。 その唇を塞ぐように、そっと彼のそれが重ねられた。 |