クラインの名前とサハクの名前を使えば、彼に面会する許可を取るのは難しくない。しかも、彼は今回の戦闘でザフトに協力をしたという実績があるのだ。だから、他の者達とは微妙に立場が違っている。
 それでも、監視を遠ざけるのには少々苦労をした。
 しかし、それも必要なことだから構わない。
「……カリダさんが保管していた、ヴィアさんのウエディングドレス?」
 ギナの問いかけにフラガが何かを思い出そうとするかのように考え込む。
「それなら、ほぼ無傷で残っていたから俺が確保をしてマーナさんに渡したぞ」
 だから、今でもあるとすればアスハのどこかだろう……と彼はそのまま口にする。
「一応、カガリも女だからなぁ」
 彼がそう付け加えたのは、間違いなく今の彼女の言動を思い浮かべてのことだろう。
「……あれは、恋愛結婚は出来そうにないがな」
 今のカガリに言い寄れるほど度胸のある男はほとんどいない。いるとすれば、身内か打算のあるものぐらいではないか。
「まぁ、それも《アスハ》の名を継ぐものである以上、仕方がないことだが」
 カガリもそれはわかっているはずだ。だからこそ、キラの恋愛にあれだけ真剣に取り組んでいるのだろう。
「もっとも、相手に対する嫉妬心がないとは言えないがな」
 あの二人が完全にくっついてしまえば、キラがオーブに帰ってくる可能性は少ないだろう。そう言ってギナはため息を吐く。
「残念だよ。私がもう少し年下であればな」
「その時は、絶対に邪魔していたに決まっているだろう!」
 ギナのそのセリフに、即座にフラガが言い返す。
「おや。それは残念だな」
 そうすれば、キラはオーブにいてくれたのに、と彼は真顔で付け加える。
「残念ではありません。そんなことになっていれば、わたくしがキラに会えなくなるではありませんか」
 ラクスもまたこういう。
「ご心配なく。キラのことはミゲル様だけではなくわたくしもしっかりと守らせて頂きますから」
 安心してください、と微笑めば、二人はそれぞれに意味合いの違ったため息を吐く。
「それはそれで問題がありそうだが……」
 ぼそっとフラガが呟いた。
「何か?」
 にっこりと微笑みながら聞き返せば「別に」と言い返される。
「しかし、キラの結婚式なら、やはりオーブでもやって貰わなければなるまい」
 そうしなければ、他の者達が納得しないだろう。ギナは静かな声でそう言った。と言うよりも、納得しないのは彼なのではないか……と思う。
「だよな。カリダさん達のお墓もあちらにあるし」
 せめて晴れの姿は彼等にも見せてやらないと、とフラガも頷く。
「……その前にミゲル様には頑張って頂かないと」
 最低限の手順は踏んでもらわなければいけないだろう。ラクスはそう言って微笑んだ。
「今まで、あれこれ邪魔してきた分、しばらくは遠くから見つめている必要があると思いますが……静かにそうしてくださるかどうか」
 誰が、とは言わない。しかし、二人にはわかったのだろう。
「だが、私としては邪魔したいがな」
 そうすれば、キラの気持ちが変わる可能性ある……とギナは笑いながら口にした。
「いや、その可能性は限りなくゼロに近いと思うぞ」
 即座にフラガが反論の言葉を投げつける。
「くっついてから直ぐに離れ離れになったらしいが、それでも、熱々だろう、あの二人」
 むしろ、邪魔された方が燃え上がるかもしれないな。彼はそうも付け加えた。
「ラウの野郎も味方をする気、満々のようだし」
 第一、邪魔をすればキラに恨まれかねない。そう言われて、ギナは複雑な表情を作った。
「確かに」
 こればかりは、な……と続けた言葉の裏に、何か別の人物のことを思い出しているように感じられた。
「それよりも、俺としてはさっさと大手を振って表を歩きたいんだがな」
 何とかしろ、とフラガが言う。
「もうしばらく待て。とりあえず、お前達の身柄をオーブに移さねばならん」
 そのために、自分たちだけではなくウズミも動いている。だから、と彼は続けた。
「早めに頼む。俺もゆっくりとキラと話をしたいからな」
 あれこれ約束もしているし。フラガはそう言って苦笑を浮かべる。
「そうか」
 わかった、とギナも頷く。
「あれが大人しくこちらとの話し合いの席に着いてくれれば、直ぐだろうがな」
 ミナがいる以上、議論に関しては問題がないはずだ。
「……お前、自分でどうこうしようとは思わないのか?」
「会談をぶち壊す自信なら、いくらでもあるがな」
「そう言う問題じゃないだろう」
 次第に、会話の内容がずれていく。しかし、それはある意味微笑ましいと思える。
 そんなことを考えながら、ラクスは目の前の光景を見つめていた。



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