「この時期に、非公式とはいえオーブの首長家の人間がプラントにいてくれたのは幸いかな?」
 シーゲルのその言葉に事情を知らない者達が一斉に不審そうな表情を作った。
「それは、どういうことなの?」
 真っ先に口を開いたのはルイーズだ。
「クルーゼ隊のヤマト嬢が地球軍より救出した少女は、アスハの後継だそうだ」
 そして、彼女の身柄を引き取るためにサハクの双子が来ている。そう彼は続けた。
「彼等は、既に、今回の戦争の事後処理に協力してくれる、と申し出てくれている」
 シーゲルのこの言葉に、誰もがほっとしたような表情を作っている。それはきっと、戦後処理にかかる時間が短くてすむだろう、と考えてのことではないか。
 その分、国内の復興に多くの時間を割くことが出来る。現状では、そちらの方が優先だと考えているのだろう。
 しかし、その中で一人、パトリック・ザラだけが微妙な表情を作っている。
 やはり、彼は要注意かもしれない。
 デュランダルは心の中でそう呟いていた。

 そのころ、レイは困惑の中にいた。
「……それは、無理です」
 その表情のまま、こう告げる。
「何故だ?」
 カナードは許可されたのだろう? それなのに、何故、自分はダメなのか……とカガリは詰め寄ってくる。
「カナード兄さんだから、許可されたのです」
 彼は周囲の者に悟られずに出入りできるから、とレイは続けた。
「そうだな。あいつがそれが出来る」
 今までも、クルーゼ達に内密の話があるときには、彼に頼んでいた。そして、今までに一度も見つかったことがない。そう言ってミナが笑う。
「お前には無理だろう、カガリ」
 どれだけ気配を消そうとしても出来ない。むしろ、逆に存在を知らせてしまうのが関の山だ。彼女は微笑みを浮かべたまま手厳しいセリフを口にしてくれる。
「何よりも、キラもラウも、現在、自分の仕事で手一杯なはずだ。そんな彼等の元に押しかけていって、何をするつもりだ?」
 邪魔をする以外の、と彼女はさらに付け加えた。
「……それは……」
 その問いかけに、カガリは言葉を返すことが出来ない。
「やるべき事さえ終われば、きっと時間が取れる。それまで我慢するんだな」
 我慢できないのであれば、周囲の者達に悟られないような行動が取れるだけの実力をつけろ。そうも付け加える。
「……ところで、ギナ様は?」
 そろそろカガリがキレるかもしれない。そうなれば、別の意味で被害が大きくなる。だから、とレイは口を開く。
「いないのか?」
 それにミナが逆に聞き返してきた。
「少なくとも、俺がここに顔を出したときにはもう、いらっしゃらなかったかと」
 てっきり、彼女にはどこに行くかを知らせていったとばかり思っていたのだが。礼は言外にそう告げた。
「いや。気付かなかったな」
 小さなため息とともにミナは首を振る。
「お前達と違って、相手がどこにいるかわからないからな」
 もっとも、と彼女は続けた。
「あいつが足を運びそうなところは想像が付く。あるいは、サハクの名を使っているのかもしれない」
 行動が制限されているが、それを逆手に取る方法を彼は知っているだろう。
「……もしくは、ラクス・クラインに同行しているか、だ」
 彼女はレイと入れ違いになるように出かけている。それに付き合っているのではないか。
「思い切り嫌がらせになりそうだしな」
 誰に、とは言わない。しかし、その表情から何かいやなものを感じてしまうのはレイだけではなかったらしい。
「オーブの中立を疑われるような行動を取らなければいいが……」
 自分のことを棚に上げてカガリはそう言う。
「ラクス・クラインが一緒であれば心配はいらない。彼女の方が強いからな」
 くくっと笑いを漏らしながらミナは口にする。
「それもなんだか……」
 二人の会話を聞きながら、早くデュランダル邸に帰ってキラとお茶をしたい。そう考えてしまうレイだった。



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