流石に、出会い頭に殴られる、と言うことはなかった。
 しかし、その方がマシだったかもしれない……と思いながら、ミゲルはカナードの話を聞いている。
「……人工子宮ね」
 その開発が行われていることは、自分も知っていた。しかし、それが――過去の話とはいえ――実際に使用されたことがあったとは、というのは本音だ。
「俺とキラ。それに他に何人か、成功例があったが……生き残っているのは俺たちだけだ」
 それは、人工子宮の不具合が理由ではないのだろう。彼の表情からそう推測をする。
「まぁ、俺としては、キラが生きていてくれてラッキーなんだが……」
 しかし、自分で自分の身を守れない者達を狙うというのはなんなのか。そう言いたい。
「……お前……」
 ミゲルの反応が予想外だったのか。カナードは目を見開いている。
「だってさ。キラはキラだろう? 別にどんな生まれだろうと、俺にとっては、今傍にいてくれるあいつが大切なんだし」
 それ以外のことは二の次だ。そう言ってミゲルは笑う。
「と言っても、あいつの身柄に危険が及ぶって言うなら、詳しい話を聞くべきなんだろうけど」
 知らないことで守れないのは不本意だ。そうも付け加えた。
「その程度の覚悟は決めている、と言うことか」
「でなきゃ、隊長が許してくれるはずないじゃん」
 あの、と付け加えたのには他意はない。ただ、自分にとって彼はいつでも怖い存在だ、と言うだけだ。
「ふん……返答次第では殴ってやろうか、と思っていたのだがな」
 とりあえず、やめておいてやる。そう言う口調は、ものすごく偉そうだ。
「それはありがとう。キラに心配をかけたくないし」
 泣かれるのはもっといやだ、と続ける。
「……あの子に泣かれるのは、確かに不本意だな」
 カナードもそう言って頷く。
「昔を知っているから、余計に……なのかもしれないが」
 ぼそり、と付け加えた言葉にミゲルは少しだけ『面白くない』と感じる。
「何か?」
 それに気が付いたのだろう。カナードが問いかけてくる。
「アスランの時もそうだけどな。なんて言うか、俺の知らないキラの話を出されると面白くないなって……」
 だからといって、本人に無理矢理聞くわけにもいかないし……とため息混じりに言い返す。
「それであいつを傷つけるかもしれないしな、と考えると迂闊な行動も取れないし」
 ミゲルのこの言葉に、カナードは淡い笑みを浮かべた。
「あいつに比べると、ものすごくマシだな」
 そのまま、こう告げる。
「とりあえず、心配するな。あいつが泣いていたのは、注射が嫌いだっただけだ」
 それも、治療のためではない。研究のためにサンプルを取られていたのだ……と彼は微かに顔をしかめながら付け加える。
「あいつの場合、カガリとの比較実験、と言う意味もあったのだろうがな」
 それでも、二人の両親は己の血をひく子供達を本当に愛していた。だから、そんなことも最小限ですませようとしたのだが……とカナードは言葉を重ねる。
「研究者の中には『科学の発展』のためであれば何をしてもいい。そう考えている連中もいる、と言うことだ」
 キラの両親がいなければ、そんな連中が何をしでかしてくれたのか。そう言いたくなる。カナードは忌々しそうに言葉を重ねた。
「そんな変態がプラントにもいると?」
「あぁ。それはない。ただ、どこからわいてくるかわからない、と言うだけだ」
 これからきっと、あれこれあるだろう。そして、キラの今の姿を見れば彼女の秘密に気付くかもしれない。そう言うことだ。彼はそう言った。
「……まぁ、その時はあいつを連れて逃げるだけだろ」
 それが一番確実ではないか。
「そうだな」
 そのための場所は確保しておくか……とカナードは頷く。
「ついでに言っておくが、連中が欲しがるのはキラだけじゃないぞ。あの子が産むであろう子供も研究対象にしようとするはずだ」
 さらに彼は付け加える。
「だから、俺の家族は俺が守るって。幸か不幸か、そのための実力をたたき込んでくれた人もいるし」
 それが誰のことか、言わなくてもわかるだろう。
「なるほど」
 言葉とともにカナードはにやりと笑った。



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