ようやく、地球軍の旗艦から降伏信号があがる。それを確認して、クルーゼは小さなため息を吐いた。
「もっとも、完全に終わったわけではないがね」
 むしろ、これからのほうが大変ではないか。
 もっとも、その役目を担うのは自分たちではない。シーゲルをはじめとする政治家の役目だ。
 もちろん、その中にはデュランダルも含まれている。そして、交渉の窓口にはきっと、ウズミがなってくれるだろう。
「ならば……私のすることは少ないな」
 結局、自分は戦うことしかできないのだ。だから、と彼は続ける。
「ならば、後は双方が速やかに撤退するように監視すべきだろうね」
 暴走するバカが出ないようしなければいけないだろう。停戦が結ばれた以上、これから先の行為はただの私怨と言うことになる。
 しかし、それが根深い、と言うことも否定できない事実だ。
「とりあえず、余力があるものを監視に残して、後は休息させるか」
 とくに、最前線で戦った者達は最優先で休む権利があるだろう。
「あの方々がそう考えてくれればいいが」
 そう言いながらも、クルーゼは周囲を見回す。
「キラ」
 そこで見覚えのある機体を確認して静かに呼びかける。
「先に帰還しなさい」
『ですが』
 しかし、彼女は納得しないようだ。こう言い返してくる。
「そうしないと、あの男が何をしでかすか、わからないからね」
 ついでに、カナード達がどのような行動を取ってくれるか。それもわからない。だから、と言葉を重ねる。
『……わかりました……』
 流石に彼等にあれこれされてはまずい。そう考えたのだろう。キラは不承不承ながら同意をしてくれる。
「私も、他の者達も、直ぐに帰還する。だから、何も心配しなくていいよ」
 ただ、最後まで確認をする義務かあるからね……とクルーゼは優しい声音で告げた。
『はい』
 でも、出来るだけ早く帰還を……とキラは言い返してくる。
「君が待っているのは私ではなく、ミゲルではないかね?」
 苦笑と共にこう問いかけた。
『隊長!』
 即座に抗議の声が返ってくる。
「今まで恋人らしいことをする時間を上げられなかったのは本当のことだろう?」
 気にしていたのだよ、と続けた。
『いい加減にしてください! プライベートです!!』
 そのままキラは機体の方向を変える。そして、ヴェサリウスへと移動していく。
 どうやら、これ以上、クルーゼの言葉を聞いていたくない……と言うところだろうか。あるいは、公然の秘密とはいえ、誰に聞かれるかわからない状況でさらに言葉を重ねられるのはいやだったのかもしれない。
「おやおや。怒らせてしまったかな?」
 本気で言ったのに、とクルーゼは呟く。
「機嫌を直してもらうのが大変かもしれないね」
 もっとも、その位お手の物だが……と心の中で付け加えた。
『そんなあんたの傍にいて、よくもキラは素直に育ったものだ』
 あきれたような声が耳に届く。
「これも愛情だよ」
 それに、とクルーゼは笑いを漏らす。
「レイにはもっと厳しく接していたつもりだが?」
 キラには今回のこと程度ですませたが、レイであればもっとつっこんだだろう。
『やっぱり、どこか間違っているな』
 ため息混じりに彼は続ける。
『まぁ、いい。俺は戻るが?』
「わかった。また後で話をしよう」
『……了解』
 言葉とともに通信が切られる。そのまま、彼はロンド・ギナと合流して戻るだろう。
「さて……私も戻るか」
 その前にミゲル達の無事を確認したいのだが、と彼は呟いていた。



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