戦場のあちらこちらで虚空に光の花が咲く。
 その光景を見ながら、ラクスはそっと両手を組んだ。
「皆様、ご無事で……」
 自分の目から見て、どちらが有利なのかはわからない。だが、今も誰かの命が失われていることは事実なのだ。
 ザフトの人間であろうと、地球軍の人間であろうと、その人物を大切に思っている《誰か》がいるはずに決まっている。
 それなのに、どうして戦いをやめようとしないのか。
 そうは言っても、仕方がない、と言うこともわかっている。
 だが、すこしでも早く停戦をしてくれれば、それだけ助かる命があると言うことも事実。
「キラ……」
 無事でいてください、と戦場にいるはずの親友へと呼びかける。
「あなたを待っている人間がいることを忘れないで」
 ザフトの歌姫、と呼ばれている以上、誰か一人の無事を祈るのは間違っているかもしれない。だが、この時だけは許されるのではないか。そう思いながらラクスは再び虚空を見つめた。

「……予想以上に、早い」
 あれだけ大きな機体なのに、とキラは呟く。
 しかし、だ。
 あれだけの機体を制御できるとすればどのような人間なのだろう。
「ナチュラルじゃない?」
 少なくとも、普通の……と思う。
 あれだけ急な動きをしているのだ。体にかかるGは自分たちが感じているそれではないだろう。そう考えれば、普通のナチュラルに耐えられるとは思えない。
 そして、地球軍にも同胞コーディネイターがいることは聞いていた。そう言う人物がストライクをはじめとする機体の開発に関わっていたことも、だ。
 しかし、そのような人物を戦場に出すだろうか。
「そんなこと、考えている場合じゃない!」
 ともかく、目の前の機体の足を止めることを考えなければいけない。
「どこを狙えばいい?」
 一瞬だけでいい。相手の速度を落とせれば、と思う。
「ミゲルが使っていた方のジンなら、かなりスピードが出たんだけどね」
 自分のジンは、機動力よりも防御の方を優先してカスタムされている。
 それがこの状況ではマイナスになっていた。
「さて、どうしようか」
 だからといって諦めるわけにはいかないのだ。
『キラ』
 その時である。いきなり通信機から声が響いてくる。
「隊長?」
『カナードが近くにいる。だから、君は一端、ヴェサリウスまで下がりなさい』
 もっとも、敵の目にわざと見つかるように、と彼は続けた。
「陽動、ですか」
 危険だが、ヴェサリウスのフォローがあれば、逃げ切ることが可能だろう。そう思いながら、聞き返す。
『そう。大丈夫だね?』
 ある意味、一番危険な役目だが、とクルーゼは告げた。
「大丈夫です」
 クルーゼ達がフォローをしてくれるのであれば、自分に危険が及ぶはずがない。キラはそう言い返す。
「それに、あれを止めることが最優先だと」
 多少の危険を覚悟してでもやらなければいけないのではないか。キラはそうも付け加える。
『……お前にあれは近づけない。安心しろ』
 不意に、カナードの声が耳に届く。おそらく、クルーゼが手を回しているのだろう。だから驚くことではない。
「うん。信じてる」
 だから、即座にこう言い返す。そして、即座に行動を開始した。



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